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デート

 それから少しずつ、清水くんと話すことが多くなった。廊下で会えば挨拶をするし、お昼は一緒に食べる事が多々あった。

 清水くんは静かな人で、どこか大人っぽい。それでも、写真に対しては熱があって。その姿に私はどんどん惹かれてしまう。


 蓮華さんに恋愛感情を抱いていた。だけど、それを清水くんに抱いているかどうは別問題だと思っていた。だけどやっぱり、一緒に過ごしていると「あぁ好きだなぁ」って感じてしまう。その感情はやはり恋であり、清水くんの事を好きなんだと実感する。


 清水くんは、私の事をどう思っているのだろう。少しでも私に、好意を寄せてくれているだろうか。多くを望みはしない。でも、今よりも清水くんと写真の話が出来たら、どれだけ幸せだろう。


 もっと、沢山の時間を清水くんと過ごしたい。


「はぁ……」


 私は裏庭のベンチに座り、思わず溜息を吐いてしまう。あーしたい、こーしたい。色々な思いがあるのに、それを口にするのは難しい。私には後一歩の勇気がいつも足りないように思う。私に後一歩の勇気があれば、清水くんに告白でもしているのだろうか。


「どうしたの?恋する乙女みたいな溜息吐いて」


「し、清水くんっ」


「こんにちは。悩み事?僕で良かったら聞くよ」


「う、ううん、悩み事って程じゃないんだけど…」


 本人目の前にして恋愛相談なんて出来る訳ないよ……。


「そう?それなら良いんだけど……。あ、じゃあ、気分晴らしに、学校が終わったら僕と一緒にお茶でもしない?オススメの喫茶店があるんだ」


「あ、この前載せてた場所?」


「うん」


「それは是非!!お願いしますっ」


「篠田さんなら乗ってくれると思った。じゃあ、終わったら教室まで迎えに行くから待ってて」


 以前、蓮華さんが素敵な喫茶店の写真を投稿していた。その喫茶店は凄くお洒落で、行ってみたいとは思ったけど、一人ではどこか恥ずかしく、かと言って清水くんに場所を聞くのも恥ずかしかった。だから、凄くタイミングの良いお誘いだった。


 あれ……?

 これって、学校終わりのデート……なのでは??


 授業中にも関わらず色々考えてみると「デート」というワードが頭に浮かんでしまった。男女でお洒落な喫茶店。傍から見ればカップルで、デート中なのだろうと誰もが思うのでは。


 デート。清水くんがそういう意味で誘った訳では無いと解っているのだが、どうしても二人きりでお茶をするという事に、今からドキドキしてしまう。


「篠田っ!」


「は、はいっ!」


 突然大声で名前を呼ばれ、私は勢い良く立ち上がった。周りの子達はクスクスと笑っている。私が呆然と辺りを見渡していると、私の名前を呼んだ先生が大きな溜息を吐き、口を開いた。


「篠田、考え事か?」


「す、すいません。気をつけます……」


 私は椅子に座り、授業を再開した先生を眺める。

 先生は恋人とか居るのだろうか。先生は凄く怖いけど、恋人とか好きな人の前では、その人にしか見せない笑顔とか、そういうのがあるのだろうか。


「……」


 あまり想像がつかない。


 私はその後も授業の内容は頭に入らず、時間だけが過ぎて行った。不思議と、友達にも「私らしくない」と散々言われる始末。

 これが、恋をする、という事なのだろうか。


 よくよく考えれば、好きな人が出来たのは清水くんが初めてのように思う。昔から、この男の子カッコイイなぁとか、綺麗な男の子だなぁとか。男の子に対して、色んな感情を抱いたが、友達としてではなく、異性として好きになったのは清水くんが初めて。


 だからだろうか。だからこんなにも「好き」という感情に、私は振り回されてしまっているのだろうか。

 清水くんと話すだけでドキドキして、幸せな気持ちになる。毎日、次はどんな写真を投稿するのだろうと、サイトを見る。清水くんの事ばかり考えてしまう。


「篠田さんいる?」


「あっ」


 教室で清水くんを待っていれば、清水くんは教室の前で私の事を探していた。私は急いで清水くんの元に行く。


「お待たせ」


「ご、ごめんね、わざわざ教室の前に来てもらって」


「気にしなくていいよ」


「え、なになに~?篠田さんって清水くんと付き合ってるの~??」


「えっ!??」


 突然の事に私は驚き戸惑ってしまう。クラスメイトの冷やかしだと解っているが、清水くんの事を好きだからだろうか。どうしても過剰反応してしまう。どう対応して良いか解らずにいると、清水くんが口を開く。


「違うよ」


 清水くんは冷やかしてくるクラスメイトに笑顔で一言だけ言い、私の手を引いて教室を後にする。私は手を引かれるままに清水くんに着いていくだけ。


「ごめんね」


 学校を出た後、清水くんは静かに口を開いた。


「え……?」


「僕の軽はずみな行動で、篠田さんに迷惑掛けちゃったなって思って。嫌な思いしたよね」


「そんなことっ!」


「気遣わなくても」


「ほ、本当に迷惑とか思ってないよ。むしろ、私が清水くんに申し訳無いことしちゃったかなって」


「僕は……べつに……」


 ぎゅっと、清水くんは掴んでいる私の手を強く握る。先程まで、ただ手を引いていただけだったのに、何故か手を繋いでいる様な感覚に私は無性に清水くんの事を意識してしまう。

 頭の中はテンパってしまって、清水くんの手を私は握り返す。それはそれで凄く恥ずかしくドキドキとしてしまって、何処か気まずい。


 なにやってんだろ、私。

 こんなことして、逆に迷惑とか思われたり……しないかな。


「し、清水くん……」


「あ……ご、ごめんね」


 パッと清水くんの手が離れて行く。お互い、気まずさを残した状態のまま二人並んで歩いた。お互いの距離感が近いのか、手と手がぶつかると、パッと手を引っ込めてしまう。


「わぁ~」


 喫茶店の外装からレトロな雰囲気が滲み出ており、私は思わず声を漏らした。清水くんが中に入って行くのに着いていく。

 店内ではクラシック音楽が流れていて、確かに静かな雰囲気で客層は大人が多かった。写真でレトロ系なのかな?と思ってはいたが、写真だけじゃ判別は難しい。

 でも本当にレトロな雰囲気の場所で、私は初めての場所に興奮していた。


 店員さんも、清楚なイメージを持つ髪型に制服。静かに私と清水くんをテーブル席にへと案内をしてくれた。


「あっはは、篠田さん興奮し過ぎ」


「だって……、予想以上だったから」


「気に入ってくれたみたいで良かった」


 清水くんは、メニュー表をお互いに見やすいように広げてくれる。

 こういったレトロな雰囲気の場所は、珈琲というイメージが強かったが、飲み物は意外と豊富だった。でも、少しでも大人な雰囲気を味わいたくて、苦手な珈琲にチャレンジしてみようと思う。


「ここのサンドイッチ、凄く美味しいんだよ」


「清水くんがオススメしてくれるなら、食べてみようかなぁ。あ、でも……こっちのパンケーキも美味しそう」


「それなら両方食べようよ。篠田さん一人で二つはツライだろうから、僕と半分こしよ?」


「いいの?」


「もちろん」


「ありがと」


 清水くんの申し出は凄く嬉しいものだった。両方食べたいけど、両方食べれる程お腹は空いていない。かといって、清水くんに沢山食べる子なんて思われるのは女の子として恥ずかしい。

 でも、清水くんが一緒に食べてくれると言うなら、沢山食べる子なんて思われないよね?


 清水くんはサンドイッチとパンケーキ。それと、清水くんが飲むブラック珈琲に、私はカフェラテを頼んだ。


「清水くん、珈琲飲めるの?」


「両親が飲んでるから、僕も珈琲ばかり飲んじゃってて。でも、篠田さんもカフェラテでしょ?」


「そうだけど、でも私苦いの苦手だから、お砂糖入れようかなって」


「良いと思うよ。篠田さんって、どちらかと言うとパンケーキとかパフェとか。甘いデザート系のが好きそう」


「えっ、なんで知ってるの?!」


「え、うそ、当たってる?」


「う、うん、凄いね。私、清水くんと喫茶店とか来たの初めてなのに」


「僕の勝手なイメージだったんだけどね」


 私と清水くんは学校での事を忘れたように、楽しげに会話を続けていた。好きな食べ物の話から、好きな花とか、景色とか。

 やっぱり、清水くんと色んな話をするのは楽しい。こんなにも会話を楽しいと感じるのは清水くんだけ。


 会話を続けていれば、店員さんが飲み物と一緒にサンドイッチを運んで来てくれた。二つあるサンドイッチを一つ手に取り、私は頬張る。

 柔らかなパンに、ハムときゅうりとスクランブルエッグ状の卵。至ってシンプルなサンドイッチなのに、凄く美味しい。


「んっ、おいしい」


「でしょ?」


「私、こんなに美味しいサンドイッチ、初めて食べたかもしれない」


「それは大袈裟だよ。あ、篠田さん」


「なに…?」


 スッと清水くんの手が私に向かって伸びる。清水くんの指先が私の口先に触れれば、清水くんはクスリと笑ってみせた。


「卵、ついてたよ」


「えっ、ご、ごめん、ありがとう」


「どういたしまして」


 び、びっくりした……。て、ていうか凄く恥ずかしい。


 清水くんもサンドイッチを食べ始め、私は清水くんの行動に余計意識をしてしまい、無言でサンドイッチを食べ続けた。その間にパンケーキも運ばれてきて、パンケーキもこれがまた美味しそう。

 ふわふわしてそうな生地に、甘そうな生クリーム。そしてカラメルソース。

 美味しさを想像するだけで、頬が落ちてしまいそう。


 想像以上のふわふわした生地に、しっとりと広がる甘味。私は今、凄く幸せだ。


「篠田さんは凄く美味しそうに食べるね」


「そ、そうかな」


「うん。可愛いよ」


「へっ……」


 予想だにしない返しに、私は口を止め手を止めてしまった。清水くんは私に笑顔を向けるのみで、ゆっくりと珈琲を飲む。


「食べないの?」


「た、食べる!食べるけど……」


「困らせちゃった…かな……」


「……ど、どういう意味なのかなって。ご、ごめんなさい」


 動揺してしまって、私は手を動かせずにいる。

 清水くんの言葉にドキドキしている。まさか、清水くんの口から、私に対して「可愛い」という言葉が飛び出てくるとは思わなかった。その「可愛い」という言葉の意味を一生懸命に考え、清水くんはそれをどういった気持ちで発したのだろうと、グルグルと考えてしまっている。


「……そのままの意味だよ。篠田さんって可愛いよね」


 どこか開き直ったかのような清水くんの言葉。その言葉に私は顔が熱くなる。

 たぶん今……凄く顔赤い。


「か、可愛いって……」


「僕ね、写真で繋がる世界で、初めてフォローしたのは夢みる少女さんが初めてだったんだ。夢みる少女さんの撮る写真は惹かれるものがあって、綺麗だと感じた。夢みる少女さんは僕の憧れで、夢みる少女さんのような写真が撮りたくて、色んな写真を撮ったんだけど、夢みる少女さんのような写真は撮れなかった」


「で、でも、清水くんの撮る写真、私は好きだし綺麗だと思う…けど……」


「そう。夢みる少女さんにフォローされた時、僕凄く嬉しかったんだ。あの夢みる少女さんが僕の撮った写真を見てくれる。僕の撮った写真を綺麗だと褒めてくれる。それだけで幸せで嬉しかった。たまにくれる夢みる少女さんのコメントは一言だけだったけど、そのコメントが来るだけで僕はドキドキして、この人の事が好きだなぁって感じたんだよ」


「……え…」


「篠田さんに声を掛けたのは偶然。でも、篠田さんが夢みる少女さんだって知って、嬉しかった。身近に夢みる少女さんはいたんだって。でも…、それで篠田さんを好きかどうかは別問題だと思ってた。それなのに、篠田さんは僕が勝手に描いていた夢みる少女さんそのもので、やっぱり好きだなぁって思ったんだ」


 余りの事に、私の思考は追いついていない。


「篠田さんの事が好きです。

僕と付き合ってください」


 清水くんは手を差し出してきた。

 yesなら手を握って欲しいと言わんばかりに。


 私は、夢を見ているような展開に、何度も頭がおかしくなってしまう感覚に見舞われたが、私は躊躇うことなく清水くんの手を握った。


 私が手を握った時の清水くんの表情は、とても嬉しそうで、可愛いらしい笑顔を浮かべていた。

 清水くんが告白をしてきてくれたから、私は清水くんの手を握る事が出来た。清水くんが、私には無い勇気を出してくれたから。

 清水くんの気持ちは凄く嬉しい。だから私も、清水くんに対する気持ちを話さなければいけない。


 それは凄く凄く恥ずかしい。でも、それは清水くんも同じだった筈だ。私は、ゆっくりと、ちゃんと気持ちが伝わるように清水くんに話した。何度も噛んでしまったりしたけれど、清水くんは黙って私の話を聞いてくれていて、その優しさが凄く暖かくて嬉しかった。


 全てを話し終えた時、清水くんはクスッと笑って、幸せそうな笑顔を浮かべながら、口を開いた。


「僕達、思っていた以上に似た者同士なのかもしれないね」


「写真で繋がる世界」というSNSで見付けた蓮華さんは、初めこそ憧れの存在だった。

でもそれが恋愛感情に変わっていて、私自身、スマホの向こう側の人の事を好きになってどうするんだと、自分自身の事を馬鹿にしていた。


 それにSNSという世界中が繋がるサイト。

 みんながみんな良い人だとは限らないし、出会い目的でやっている人も少なく無い。そんな中で、蓮華さんの事を信じて疑わなかった。優しくて、穏やかで、良い人。


 でも実際に、蓮華さんは私の想像通りの人だった。

 その蓮華さん。本名、清水蓮くん。リアルで偶然にも会えるとは思わなかった。


 清水くんと出会ったのは偶然だったかもしれない。でも今は、その偶然に感謝してもしきれない。

「写真で繋がる世界」があったから、私は今、清水くんと同じ時を過ごせているのだと思う。


 SNSは悪い事ばかりじゃない。

 時には、幸せを運んできてくれるのかもしれない。

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