写真で繋がる世界
パシャ―――
学校の帰り道。太陽が沈もうとする空は、オレンジ色で綺麗だった。私は思わずスマホを構えて、夕暮れ時の空を写真に収めた。
歩きながら画像フォルダを開き、私は写真が保存されている事を確認する。画像フォルダには、先程撮った写真以外にも、家で飼っている猫の写真や、スズメ、カエルなど。様々な写真が収められている。
パシャ―――
綺麗な写真を撮れた満足感に浸っていると、再び写真を撮った音が聞こえた。私は思わずスマホから目を離し、辺りをキョロキョロする。そうすれば、私と同じように写真を撮る男子生徒が居た。その男子生徒は同じ学年の男の子。同じように写真を撮っていたから知っている。名前は確か清水蓮。
少しだけ嬉しいと感じた。私と同じ空を見て、同じ行動をする。親近感が湧いたが、私には声を掛ける勇気は無かった。
◆◇◆◇
「ふぅ…――」
自宅に帰ってきた私は、スクール鞄を机の上に置き、スマホを持ったままベッドにうつ伏せになった。
しばらく枕に顔を埋めたが、私は直ぐにスマホを触り、サイトにアクセスした。
そのサイトは「写真で繋がる世界」というSNSサイト。知る人ぞ知る写真投稿サイトだ。このサイトでは写真の上手さなんて関係ない。自分達の好きな写真を撮って、投稿する。写真だけの投稿でも良いし、写真と一緒に一言コメントを添えても良い。
フォロー機能がある為、自分の気に入った人をフォローして、いつでもその人の投稿した写真を見る事ができ、フォロワー数は、謂わばその人の人気度みたいなものだろう。
私は先程撮った写真を早速投稿した。
「私の好きな夕暮れ」というタイトル。一言コメントは、「綺麗な夕暮れを見て、思わずパシャリ」である。
そして私は自分のフォロー一覧から蓮華という名前をタッチする。私のお気に入りの人であり、フォロワー数は3800という数字。「写真で繋がる世界」では、まあまあ有名な方なのだ。
蓮華さんは写真を撮るのが凄く上手だ。確かに上手さは関係ないが、人気が欲しければ上手くなるしか無いし、少なからず人気取りの為に、このサイトに写真を投稿している人は居るだろう。私は綺麗な写真が見れて、投稿出来れば人気なんてどうでもいい。
「あ…更新されてる」
蓮華さんが新しい写真を投稿したのだ。私はその写真を真っ先に見に行く。
見てドキッとした。蓮華さんが投稿した写真は、私が投稿した写真と似ていたのだ。しかも蓮華さんの一言コメント。
「学校の帰り道、女子生徒が夕暮れの写真を撮っていたので、僕も真似をして撮ってみました(笑)
彼女も、写真で繋がる世界やってるかな?」
心臓がドクドクと煩く脈を打っていた。次第にそれはドキドキに変わっていて、私は顔が熱くなるのを感じる。
もしかしたら、あの時の男子生徒は蓮華さんだったかもしれない。私は蓮華さんに憧れていた。こんなにも綺麗な写真を撮る人に会ってみたいと感じていた。会って、色んな話をしてみたいと。
そしてその感情は、次第に恋愛感情になっていたのだ。会って話してみたいと常日頃に感じていた。
蓮華さんの事はサイトでしか知らない。サイトでの情報でも、同い歳で男の子で。それぐらいしか知らなかった。でも、写真と一緒に載る一言コメントで、穏やかな人なんだろうかと、色々蓮華さんの人物像を想像していた。
私は思わず、蓮華さんにコメントしようとしていた。でも、何てコメントをすればいい?私がその女子生徒です?そんなコメント、気持ち悪いに決まってる。私は文を作っては、消去の繰り返しをしていた。
そして一言。
「綺麗な夕暮れですね」
それだけのコメントをした。