モノローグ "光樹side"
その日はおそらく二人の人生にとって大きな転換日となった。
また、それは世界にとっての変革の日となった。
二つの異なる星が訪れた日はのちにこう呼ばれた――”光闇の命日”
紅葉が紅く染まる10月某日、宏平は帰りの電車の中でスマホをじっと眺めていた。
来週はこの小説が出るのか。・・・いや、そういえばあのゲームも出た気もする。・・・・今、手持ちいくらあったっけか。この間二万円のイヤホン買っちゃったからなぁ。でもなぁ、やっぱ発売日にやりたいしなぁ。しかし、小説の早期購入特典も見逃せないし。さて、どうしたものか。
「なあ、弘俺どうすればいいと思う?」
ボックス席の対角線に座っている友人に話しかける。
弘は一瞬顔を上げたかとすぐに手元の漫画に視線を落とした。
「んー?知らね」
「は?真面目に答えろよ」
「いや、てか何のことだよ」
弘がそう聞いてきたとこでまだ話の内容を言っていないことに気が付いた。
「新しく出る小説とゲームどっちを買うか」
「両方買えばいいんじゃない?」
至極当然のことをことを言い出す弘に対し俺は大きくため息をついた。
「それができないから聞いてるんだよ、ダメだなぁ」
「いや、わかんないわ。じゃあ、好きなほうを買えば?」
「どっちも捨てがたいんだよなー」
画面を眺めながら首をひねる俺を横目に弘は荷物をまとめ始めた。
電車の到着を知らせる車内アナウンスが流れる。
「じゃな、後悔ないように決めろよ。迷って両方逃すのはもったいないからな」
「ういー」
なるほど、確かにそうだ。
優しい友人のアドバイスに心の中で感謝の言葉を述べる。
「まあ、俺は両方買けど」
「は?」
前言撤回。
帰る途中に財布落として学校の最寄り駅に届けられればいい。
手のひら返しを反して絶妙に嫌な呪詛を吐く。
電車が止まると弘は鞄を背負い手を二回ほど振ると外へ出て行った。ドアが閉まり、発車のアナウンスが流れる。光樹は過ぎてゆく暗い駅を見送ると再び手元に視線を戻した。
「ん?」
しばらくSNSのタイムラインを眺めていると、途中奇妙な広告を見つけた。
「今とは違う世界へ行ってみませんか、あなた達は選ばれた。なんだこれ」
車内は宏平以外誰もおらず、光樹の声のみが車内に響く。
その広告には読み上げた一文以外何も記載されておらず、他のサイトで検索しても何も引っかからなかった。しかし、そんなあやふやとは別に、タブを消しても普通は消える広告は再び同じ場所に出現し、唯一の情報であるその一文は変わらず映し出されていた。
「えー・・、いいや、スルーしよ」
光樹が上へスクロールしようと指を画面へ近づけたその時、
キキーッ!!
「おわぁ!?」
ポチッ
突然の電車の急ブレーキ対面の座席に片手をつく。
「いってー、なんだぁ?」
逆さまに落ちてしまった鞄を拾いながら体制を戻し椅子に座りなおした。ふと、スマホの画面に視線を戻す。
「あ」
スマホを持っていた指は先ほどのサイトの上にあり、すでに読み込みが始まっていた。
「まじかよ」
すると、スマホは眩い光を発し始めた。
「うわっ、まぶしっ!」
光樹は慌てて目を閉じるがそれでも光は収まらず、あたり一面を数秒間の間白く呑み込んだ。そして光がやんだ時、宏平の姿は跡形もなく消えていた。