おおよそ消えた未来
あの島へ向かう途中、雨は突然降り出した。
余り外に出ない私にとっては陽が昇るなか降る雨は異常でしかなかった。
それでもいつも通りを保持しやっと島へと辿りついたがそこには先客が居た。
「こんな辺鄙な島へ何の用だい?」
先客の男は私達を見かけるや否やすぐ質問をしてきた。
「遊び...ですかね、そちらは?」
「ここは遊びで来るような場所ではないよ。私は探索に来てみただけだ。ここは懐かしい場所でね」
あの禍々しい事件から数年しか経っていない。懐かしい場所と言うのはそれ以前にここに来ていたということだろうか。
「そういえばここで数年前、連続殺人があったみたいですね」
「実に不幸な事だと思うよ。私にとっても。折角の所有地が赤の他人の墓場になるなんてね」
島の館の所有者と言う男は館へと誘った。
どうせ後で入るなら、ということで乗ってしまった。
「そういやあの事件には面白いことがあってだね。まあ入れば分かるけど」
鍵はあのころに比べ軽くなっていた。
そういや周りも少し綺麗だし手入れしたのだろうか。
「どうぞお入りになって」
懐かしさが堪らなかった。
ただここで悟られてしまうといろいろマズイので抑え抑え歩く。
「そうだ、面白いことがあると言ったね。絨毯を見てごらん」
あの赤い絨毯に紅い軌跡が刻まれている。
「血...ですか?」
「だろうね。掃除する前は玄関もそうだけど草にも血が付いててね」
「死体運びで付いたのでしょうか?」
「残念ながら死体運びには私も同伴してね。最後の戸締りをするときに血は無かったのだよ」
「じゃあ生還者が居ると?」
「一人は警察が救助したはずだ。だから草に血を付けるような乱雑な運び方もしないはずだよ」
「じゃあ後一人誰か生き残ってる可能性があるんですね」
流石にこの状況で私達がその二人であると言えるはずがなかった。
しかし生き残った被害者扱いをされている人が居る事を彼が知っているとなると悟られてしまいそうで怖い。
「そういやその救助された人は元気だろうか。いつかこの館へ遊びに来てほしいのだがね。でもトラウマの地へ来たくはないか」
愛想笑いで突破する。辺に相槌を打ってバレたりでもし...
「そういえばさ」
この状況での唐突な会話は焦る。
「その救助された人はさ」
そして次の一言で場が凍ってしまうだろう。
「両腕に小さな十字の傷があるんだよね」
私は即座に隠そうとしたが出来なかった。
こんな暑い日に長袖なんて着る勇気などなかったのだ。
「噂話なんだけどね...って何をそんなに焦っているんだい?まさか君たちが...」
「遊びに...来ましたよ」
「そうかそうか、なら良いんだ。取り敢えずそこの席に座りな」
今から始まるのは死への急行だろうか。
私達が慄いてるのを背に厨房に立つ男は独り言った。
「君たちの人生にショートカットなどないのだよ」




