故郷 -後篇-
あなたにとって故郷とはなんだろうか。
いつか帰る場所だろうか。それとも...
崖から落ちても死ぬ筈がない。
私はそんな軟ではない。筈である。
高らかに笑い声が響いた。
勝ち誇ったかのような純粋な純粋な。
あの人は確信してしまったのだろう。
私が“裁かれた”のだと。だがその私が淵から登ってきたらどうだろうか。
未だ声は聞こえる。
「つ・・儂の・・が勝・・・!あ・・はも・・いな・!」
私は砂を払い登っていく。ネタバレにしては早い時間かもしれないがまぁいいだろう。
次第に声は鮮明になっていく。
「儂こそ正義!誰にも裁かれることのない正義!あやつは自ら死を撰んだ!儂が決めたのではない!」
私は殺しを働いたのだから死んでもしょうがないが被害者扱いされる今ではこうやって遺族と面談するのが憩いというものだ。
そしてとうとう彼のもとに私の姿が映る。
「絢爛たる正義に安寧を!愚悪なる偽善に束縛...を?」
「会いに来ました。地獄の果てから這い蹲ってです」
「何故だ?何故死なない?あの崖から落ちて...」
「死ななかったんです。残念でしたね。それでは」
はっきり言うとこの人は飽きた。
なんたって面白味がない。淡白な奴だ。
「ほんと時間ないんでね。それじゃ洞窟生活を」
「儂は貴方が此処に来た理由は分かる。儂の娘と同じ目に遭わせたかったのだろう。今は被害者の身。何か起こさない限り赦されるんだろう...?で、儂を殺すとどうなるか...そうなんだろう?」
「私はあくまで、遺族の方に会いに来てるだけです。別に殺しに来てる訳でも、罪滅ぼしに来てる訳でもない」
厭に洞窟が暗く長かった。
分岐が無い分楽なのだがそれ故単調である。
次第に明るくなってきた。
外だろうか?残念ながら松明の灯りであった。
そこから何分経っただろうか。
66分か?横道に出たのはその位であった。
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月は明るかった。
然しそれ以上に街が明るすぎた。
夢にでもみたような街。
想像の範疇でしか成し遂げられなかった街。
紫に赤、青に緑、白に黄。
魔彩光のパレードは実に哀しかった。
人がそんなに居る訳ではない。
3桁も行かないこの地が此処まで華やかになると逆に恐ろしかった。
私は何度か自分の頬を叩いたが醒める事はなかった。
もう醒めているのだろうか?
しかし時機にその夢現は泡となって弾けるのであった。
いきなり魔彩光は閉じた。
腕時計の針が全て上を向いた、その瞬間だった。
小さな通りに人が集まりだす。
それもこの山からでは小さく見えてしょうがない。
紅い提灯に火が灯り進軍する。
そう、この山に。
私が立つこの山にその灯の集合体は進軍するのだ。
その中にひとつ、青い光の火が灯っていた。
私は此処を逃げるべきだろか。
あの進軍“パレード”を見てからでも遅くないか...




