ダブルレター
ここは"""""。港が近くほのぼのと暮らせる地方。
残念ながら名前は伏せさせていただく。
今日もまた海風が心地よい。
禍々しいあの日の記憶はもう消え去っている。
結果として私は見つかってしまったわけだが、被害者の一人として扱われてしまっている。
こうやってカフェテラスでゆっくりするのもまた楽しい。
趣味が一つ増えたと言ったところか。
だが、ある一通の手紙で私はまた流転することになってしまう。
~
あの日、あの時見た幻想は儚く、美しくもありました。
私の中では空虚な絵空事というのが想像の限界です。
さて、私が貴方へのこの手紙を書き終わり、届くころには
支度を終えているでしょう。
それでは貴方が来るまで。
~
どうしてこうも記憶の一片から持ってこようとするのだろうか...
しっかりと住所は書かれているし、訪ねることにした。
新たなる冒険の幕開けかもしれない。
------------だがそれは大きな間違いであった。
「失礼するよ」
6回程のノックは私の定番だ。
「あら、いらっしゃい」
「この手紙の送り主はあなたかい?」
「おお、良くぞ来てくださった。さあさあ席へ」
「この支度というのは?」
3枚折りにした手紙を広げ見せる。この人が書き主とは思えないほどギャップがある。
「事実の昔話といえば大仰、ですが風化させるわけにもいきませんので語らしていただきます。少しながくなるかもですが」
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ある日夏の昼下がり。私と亡き息子は家で束の間の休息を得ていました。
私は無糖珈琲を。彼はロイヤルティーを飲んでいました。
夕方、曇ってきたので窓を閉めるついでにポストの中を覗きました。
そこには一通の黒い便箋がありました。
「XXXX」...息子の名が記されておりました。
私は息子に便箋を渡しましたが書体に既視感はないようでした。
それに書かれていた文はこうでした。
~
明日は港で遊ぼう****や++++も誘うからさ
少し遠出するかもだからお小遣いは持ってこいよな
雨が降っても来てくれよな
もう卒業するんだしさ
~
息子は早急に支度を始めました。
そう、卒業記念みたいな集いでしょうか。
彼には友達も多かったので。
しかし私は彼が出て行った後に一つの疑問を浮かべました。
「何故便箋で伝達したのか?」
家もそんなに離れてないし学校でも話せるはずだ。
そして彼が戻ってくるまでかなりの時間があった。
そして彼は戻ってきたが戻らぬ人となっていた。
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言い終えるとその人は立ち上がり私を見つめた。
「貴方、知ってますよね?」
私は静かに頷く。
「彼は時々いたく妄想にとりつかれている時期がありました。その頃から色んな小説をよんでいたのでしょう」
「彼は実に想像力がありました。ですが最後の二人で帰還しようと言う計画は倒れてしまいました。
なんでかって?彼には想像力が足りなかったんです。最後の最後で正直者に成り下がってしまった」
「ほう、息子の注意が乏しかったのですか」
「一番信頼をしていたのが彼だったので裏切る気は全くなかったんですよ。前例もありましたし」
空が紅く染まり始め、私は帰ることにした。
その人は厭に嗤っていた。




