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SPIRAL  作者: 志に異議アリ


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5/7

中東


砂の街に、夕陽が落ちていく。

その色は赤く、どこか不吉だった。


大礼拝堂の屋根の上から、

宗教指導者 カディール はゆっくりと街を見下ろした。

ローワンとイツキの配信は、数日前に国中へ拡散されていた。


青い波形。大地の脈動。

そして“選ばれし者”という言葉。


カディールは深く目を閉じ、まるで神の声を待つかのように両手を掲げた。


その時、礼拝堂の内部から

祈りの波が押し寄せたような、圧倒的な大合唱が響きわたった。


「今回の地球の声は、神の声なのだ!

試されているのだ!

弱き者は淘汰され、信仰厚き者のみが残される!」


信徒たちが歓声を上げる。

だが、その瞳には狂気が宿っていた。


―――


『“選ばれし者”の定義が勝手に変質する』


一人の若い信徒が叫んだ。


「指導者よ!神は、我らだけを救うとお告げになったのですか!」


カディールは静かに頷いた。


「ああ、そうだ。

神の望まぬ者が、世界を乱している。

その者たちは、“地球”の名を借りた神が掃除されようとしているのだ。」


この言葉の瞬間、群衆の顔色が変わった。


“神に選ばれない者=殺してよい者”


その解釈が、誰も止められない速度で広がった。


―――


『暴走が始まる』


最初の犠牲者は、

別の宗派の集落で暮らしていた老人だった。


理由は単純。

「彼らは波形の『青』を信じようとしなかった」という噂。


数百人の男たちが夜に集落へ向かい、

松明を掲げながら叫んだ。


「神に逆らう者を赦すな!」


老人の家は焼かれ、

その夜、多くの家族が姿を消した。


政府の制止も届かなかった。

なぜなら政府そのものが、

すでにカディールの支持者たちに包囲されていたからだ。


―――


『もう逃げ場はない。』


翌朝、国境沿いで

亡命を試みる家族が兵士に拘束される映像がSNSに流れた。


母親が泣き叫ぶ。


「お願いです!私たちはただ逃げたいだけなのに!」


兵士は銃を構えたまま答えない。

背後で、指導者カディールの新たな演説が大音量で流れていた。


『逃げる者こそ、選ばれぬ者。

彼らは“神の大掃除”の対象だ。

一人たりとも国境を越えさせるな。』


国境ゲートが閉ざされ、

上空では無人機が巡回を始めた。


逃げられない。

助けは来ない。

世界は混乱していて、この国の悲鳴を聞く者はいなかった。


―――


『過激な儀式が日常と化す』


大礼拝堂では、新しい儀式が始まっていた。


信徒たちは顔に青い顔料を塗り、

天へ向かってこう叫ぶ。


「我らは選ばれし者!

青き波形は我らの証!」


だが、波形が青いかどうかなど、科学者たちすら判断に苦しんでいる。

それなのに、信徒たちは自分たちの解釈だけを“真実”としていた。


カディールは群衆を前にし、

もはや神ではなく、自分が神のように振る舞っていた。


「世界の汚れを祓うのだ!

これは我らの使命だ!」


歓声が天井を震わせた。


エネルギーは暴力に、

信仰は武力に、

希望は破滅に……変わっていく。


―――


『 国家そのものが傾く』


国外からの制裁で物資は枯渇し、

水と食料を求めて信徒同士で争いが起きる。


しかし指導者だけは言う。


「これは神が我らを選別する最終段階だ。

生き残った者こそ、真の選民。」


人々は祈り続けた。

死と隣り合わせの現実の中で、

祈り以外に拠り所がなかったから。


国の全てが、

“誤解”を信仰に変えてしまった。


―――


そしてこの国は、

自らの信仰の名を語りながら――

世界の中で最初に“内側から崩れ始めた”国となった。


次に崩れるのはどこか。

誰にも止められない。



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