揺るがぬ信頼、そして「ずっと知ってた」
翌朝、村はまだ興奮の余韻に包まれていた。
東の森は、戦いの跡を残しながらも静かだった。
村人たちは口々に言った。
「ハルトが……あれだけの魔物を……」
「人間とは思えない……でも、彼は……」
その空気の中。
あの教会の試練は、予定通り行われることになった。
理由はただ一つ。
「我々は、すべてを“証明”したいのだ。奇跡の後だからこそ、正しさを求める」
神父の言葉に、ハルトは頷いた。
「分かりました。俺も──はっきりさせたい」
再び、祭壇の前。
昨日と違い、教会内は静かだった。
村人たちが後方から見守る中、ハルトは、例の“真理の燈火”の前に立った。
その光は淡く、しかし力強く燃えていた。
(これで……本当に、何かがバレるかもしれない)
(でも──それでも、いい)
俺は、あの子を守るために、ここにいる。
「始めましょう」
神父が頷いた。
「手を、炎にかざして下さい。真実は、光の揺れに現れます」
ハルトは、静かに手を伸ばした。
──その瞬間。
《真理の燈火》は、一度、強く明滅した。
誰かが息を呑む。
そして──
炎は、何も変化せずに穏やかに燃え続けた。
「……異常、ありません」
神父の声が響く。
「彼の内に、魔族の穢れも、強制された感情も、“他者への支配”も──確認されませんでした」
村中が、どよめきに包まれる。
「う、うそだろ……!」
そう叫んだのは、もちろん──カイルだった。
「こんなはずは……! あれだけの力を持ってて、なにも“操ってない”だと……!?」
「カイル……もうやめなよ」
その声は、ルナのものだった。
彼女は、昨日と同じように、ハルトの隣に立っていた。
「誰よりも“自分を制御してる”人が、目の前にいるのに……
それを“疑う”って、どれだけ恥ずかしいことか分かってる?」
カイルは、言葉を失った。
周囲の目が、完全に変わっていた。
もう、誰も彼の言葉を信用していない。
「……っくそ、やってられねぇ」
カイルは、背を向けて教会を出て行った。
その背中に、誰も声をかけなかった。
試練が終わったあと。
外の庭で、ハルトとルナは並んで腰かけていた。
「……意外だった」
「うん?」
「……まさか、炎が何も反応しなかったとは。俺、自分でも……少し“ズル”したって思ってたから」
ルナは微笑んだ。
その顔は、昨日よりももっと優しかった。
「大丈夫。私、分かってたから」
「……え?」
「あなたが誰よりも優しくて、誰よりも自分に厳しいって、ちゃんと見てたよ」
風が、彼女の髪をそっと揺らす。
「私は、ハルトのそばにいる。
あなたが、自分を信じられなくても──私が信じるから」
その言葉に、ハルトの胸が熱くなった。
(ああ……この子が、俺を救ってくれてる)
もしかしたら、最初は命令だった。
でも今は──
“俺が守られている”
そう、思った。
教会の鐘が、ゆっくりと鳴る。
その音は、清らかで、どこか優しかった。
──そして、ハルトの物語は、静かに第二章へと動き始めた。
ハルト、ついにすべての“疑惑”を超えました。
彼の物語は、嘘から始まり、今は“信頼”へ。
ルナの「私は分かってた」が心に刺さった方、ぜひ感想をコメントで教えてください!
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