影への一歩
訓練場には、まだ汗と焼けた魔力の匂いが残っていた。
志願兵たちは生存を祝いながらも、五つの名が特に響いていた。
カエレン、リラ、ダリウス、エリラ、ロナン。
ハルトが手を上げると、場が静まった。
—「お前たち五人。私と来い」
他の志願兵たちの間にざわめきが走った。
—「彼らを…屋敷に連れて行くのか?」
—「それは…考えられないほどの栄誉だ!」
選ばれた五人は互いに視線を交わし、不安と決意を胸に、Wraithたちの後に続いてウンブラの中心へ向かった。
屋敷は没落した貴族の宮殿ではなかった。
質素な灰色の石造りで、魔法のランプが揺れる影を壁に映していた。
だが、五人にとっては、そこはまるで異世界のようだった。
カエレンは頭を高く保ち、目には燃えるような決意を宿していた。
リラは周囲の細部を観察し、まるですべてを的として見定めていた。
ダリウスは指揮官のような堂々とした足取りで、驚きを顔に出さなかった。
エリラは手を組み、ここに立てたことへの喜びを必死に抑えていた。
ロナンは壁の刻印を見つめ、まるで謎を解くように一つひとつ記憶していた。
中央の大広間で、ハルトは椅子に座り、周囲にWraithたちが静かに立っていた。
その場の空気は、厳粛で、ほとんど神聖ですらあった。
レイナが厳かな声で言った。
—「今日、お前たちはただの民ではない。
これからは、“隊長候補”としての道を歩むことになる」
リカが笑いながらも、真剣な声で続けた。
—「覚悟しな。これからは、夢の中でも“影”と戦うことになるわよ」
マリは浮遊コアからホログラムを展開した。
—「一人ひとりに役割が与えられる。
あなたたちは部隊の“目”であり“手”になる。
ただ戦うだけではない。指揮する者となるのです」
アイコは優しく微笑みながら言った。
—「間違えることを恐れないで。私たちと一緒に学んでいけばいいわ」
ルナは剣“ノクトゥルノ”を抜き、床に突き立てた。
—「だが忘れるな。ウンブラを守れなければ、次はない」
場が静まり返った。
ハルトは魔法コンソールを開き、光の鎖のようなコードが五人の周囲に浮かび上がった。
> assign_rank("Captain Candidate")
> bind_loyalty --Umbra Corps
> synchronize_with(Wraith_protocols)
文字が彼らの胸に刻まれ、一瞬輝いた後、肌の下へと消えていった。
カエレンは血が燃えるような感覚に包まれた。
リラは視界が研ぎ澄まされるのを感じた。
ダリウスは声に重みと威厳を感じた。
エリラは魔力が川のように流れ出すのを感じた。
ロナンは思考が機械のように鋭くなった。
ハルトはコンソールを閉じ、重々しい声で言った。
—「今日より、お前たちは一人ではない。
ウンブラに誓いし“影”だ」
五人は一斉に跪いた。
—「ハルト様、Wraithの皆様!
我らはウンブラのために戦います!」
入口の影に立っていたテリアは、その光景を見て胸が熱くなった。
「ほんの少し前まで、私も彼らのようだった。
今、私は…ウンブラが英雄を生み出す瞬間を目にしている」
その夜、屋敷の松明が夜空を照らし、王国中に噂が広がった。
—「ウンブラに五人の隊長が誕生した!」
—「軍はもう夢じゃない。現実だ!」
そして薄暗い広間で、ハルトは静かに思った。
「王国とは、石や金で築くものではない。
全てを捧げる覚悟を持つ者によって築かれるものだ。
そして今、ウンブラには…最初の五本の剣が揃った」
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戦争の中でも、笑顔こそ最強の武器。




