森の魔女
森は静かで、夕日の最後の光が木々の間を優しく照らしていた。
その中を、一人の少女が歩いていた。彼女は17歳。両腕にかごを抱え、唇には小さな歌。
彼女の金髪は脚まで届くほど長く、風に揺れるたびに金の糸のように輝いていた。
緑と茶色のシンプルなローブをまとい、何年も季節を越えてきたであろう古びた魔法使いの帽子をかぶっている。
彼女は優しい手つきで草や花、根っこを摘み取りながら、静かに歌っていた。
—♪ 草が芽吹けば、命が目覚める…川が歌えば、魔法が息づく…♪
その澄んだ声は、森の静寂の中に癒しをもたらしていた。
かごがいっぱいになると、満足そうにため息をついた。
—これで村の分は足りるわね。
そして、土の道を通って近くの村へと戻っていった。
彼女の姿を見つけると、子供たちが駆け寄ってきた。
—「森の魔女が帰ってきた!」
—「また薬草を持ってきてくれたよ!」
大人たちはもっと静かだったが、その目には敬意があった。
彼女は冒険者でも貴族でもないが、多くの人を癒し、救ってきた。
そのため、皆が彼女を「森の魔女」と呼んでいた。
彼女は冒険者ギルドに入った。中は賑やかで、傭兵たちが酒を飲み交わし、若者たちが傷を見せ合い、掲示板には依頼がぎっしりと貼られていた。
彼女はかごをテーブルの上に置き、帽子を整えて収穫物の仕分けを始めようとした。
その時、カウンターの方から新しく来た冒険者たちの声が聞こえた。
—「ニュース聞いたか?中でもヤバいやつ。」
—「ああ、“灰と裏切りの中から生まれた新たな王国”だろ?」
—「名前はレグナム・ウンブラ(Regnum Umbra)って言うんだってさ。」
—「ハルトって男が治めてて、隣には幽霊みたいに強い女たちがいるとか…」
少女は思わず手を止め、帽子のつばの下から青い目が光った。
—「…影の王国…?」
冒険者たちは笑いながら続けた。
—「貴族を倒して、裏切り者を処刑して、禁忌の魔物までやっちまったらしいぜ。
もう、世界は昔のままじゃねえな。」
森の魔女は黙って話を聞いていたが、その胸の奥では確かな何かが燃え始めていた。
帽子をきゅっとかぶり直しながら、心の中でつぶやく。
—「灰の中から生まれた王国…
その“影”がどんな未来を作ろうとしてるのか、私も見てみたい。」
そしてその瞬間から、彼女の運命は静かにレグナム・ウンブラへと引き寄せられていった。
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