村の夜に走る疑念と、壊れかけた信頼
陽が落ち、村に橙色の灯りがともる頃。
ハルトは、まるでこの世界にずっといたかのように、村人たちと自然に会話していた。
「ハルトくん、これ運ぶの手伝ってくれないか?」
「もちろん、任せてください」
彼は笑顔で返し、荷物を肩に担ぐ。
数日前まで誰とも話せなかった男が、今は村の一員になりつつあった。
畑の手伝い、薪割り、水くみ、簡単な修理──
人と触れ合いながら、彼は人間らしさを取り戻していく。
そしてその合間に、自らの能力の鍛錬も忘れなかった。
森の外れでこっそりコードを試す。
target("me").boostStat("strength", +2)
target("me").trainSkill("Ignite", 1.5)
地味な数値調整。だが、確実に実力は伸びていた。
そんな充実した日々の中、
夜の食事を楽しみに、ルナとともに村の酒場を訪れた。
「ここ、座ろっか」
「うん、いいね」
ルナは今日も美しかった。
銀の髪をゆるく結び、シンプルなワンピースに薄いショールを羽織っている。
耳には小さな青いピアス。
笑うたびに頬が赤くなり、彼女の存在が夜の灯りよりもまぶしく感じた。
料理を頼み、二人でテーブルを囲んだ。
彼女は、ハルトの隣にぴたりと寄り添い、食事の合間に何度も彼を見つめていた。
「最近、村の人たちと仲良くなれて……なんだか嬉しい」
「ふふ、それはハルトが優しいからだよ」
その声。その目。その距離感。
すべてが心地よく、
すべてが……どこか、完璧すぎた。
だがハルトは、もう何も疑おうとはしなかった。
この幸せを守りたい。それだけだった。
しかし、その時間は──突然、砕かれた。
「……ルナ」
酒場の入り口に立っていたのは、一人の少年だった。
年齢はハルトたちと同じくらい。
短く切られた髪、怒りに染まった顔。村の青年、カイル。
「どういうことだよ、その男……最近、ルナのそばにずっといるじゃないか」
「カイル……やめて。今は食事中──」
「お前……おかしいんだよ、最近」
酒場が静まり返る。
「お前の態度、話し方、目の動き……まるで“操られてる”みたいなんだ」
「お前、本当にルナか? それとも……何かに取り憑かれてるのか?」
その言葉に、周囲がざわつく。
「まさか……」
「魔族か? 精神操作か?」
ハルトの心臓が跳ねた。
──バレた?
いや、そんなはずは……
「ルナは……そんなことない」
ハルトが口を開こうとした瞬間、
「違うよっ!!」
ルナが叫んだ。
「私は……私はちゃんと、私の意志で……この人のそばにいるの!」
叫びは、静寂の中に響いた。
でもそれが、逆に不自然に聞こえてしまった。
(まずい……これは……)
その瞬間、ルナの父が立ち上がる。
「……ならば、証明しよう」
「ルナが“人間であり、操られていない”と」
酒場全体が息を呑んだ。
「村に伝わる“信念の灯火”を使う。感情の乱れや不純物があれば、それは反応する」
ハルトの背筋が凍る。
(それって……もし、感情に“命令”が残っていたら……)
全てが終わる。
その夜。
ハルトは外に出て、ひとり星空を見上げていた。
空は静かで、美しく、残酷だった。
“俺がしたこと”は、やがてすべてを壊すのか。
それとも──守るために、もっと深く嘘を塗り固めるべきか。
明日、試練が行われる。
そしてその結果が、すべてを決める。
村の穏やかな日々が崩れ始めた第6章、いかがでしたか?
ルナの感情は本物か、操作されたものか──次回、真実に一歩近づきます。
お気に入り登録・評価・コメントで応援いただけると嬉しいです!