レイスの影響
祭りの明けた朝。
レグノス下層の空気には、確かな変化があった。
灯りは消え、音楽も止んでいたが――
人々の胸には、昨夜の熱がまだ消えずに残っていた。
評議会が送り込んだ刺客。
今ではただの“記憶”にすぎなかった。
セレーネの激情により、完全に打ち砕かれた存在。
――少なくとも、今回は「何も残さなかった」わね。
ミネットが屋根の上から周囲を見渡しながらつぶやく。
ハルトはその隣で、低く答えた。
――それが一番、あいつらを恐れさせる。
評議会はもう分かっている。
**“止める手段がない”**と。
**
数日後、思いもよらぬ現象が起き始める。
王国の各地から――特に貴族支配の厳しい地区から――
人々が壁を越えて、この地区へと流れ込んできたのだ。
――頼む、入れてくれ!
――ここには食料があるって聞いたんだ!
――貴族の下じゃもう生きられない!
即席の警備隊が混乱する中、ハルトは一言で決断を下した。
――開けろ。
レイスの掟に従う覚悟があるなら、受け入れよう。
リカは肩をすくめて笑った。
――そのうち、満員ライブ状態になるわね。
マリは冷静にパネルを操作し、リソースの流れを再計算する。
――統治さえ適切なら、対応は可能です。
このまま“レイス自治区”が拡大すれば、
社会の重心は…確実にこちらへ傾くでしょう。
セレーネは、まだ戦いの痕が残る手で群衆を見つめていた。
ハルトへの告白の記憶が、胸を熱くさせる。
けれどその熱は、怯えではなく――力に変わっていた。
彼女は、彼のもとへと歩く。
――こんなに多くの人たち…
私たちで支えられるの?
まだ早すぎるんじゃ…
ハルトは彼女の目をまっすぐに見て、問い返す。
――…また、怖いのか?
セレーネは視線を落とし、顔を赤らめながら小さくうなずく。
――うん…でも、今回は逃げない。
その答えに、ハルトはゆっくりと彼女の肩に手を置いた。
――なら、それが一番大事な一歩だ。
**
通りには新しい顔があふれ、
笑い声や不安の声、希望のささやきが交錯していた。
かつてはただの瓦礫と貧困の地だったこの区画が、
今や人々にとって**“生き延びる場所”**になろうとしていた。
一方その頃、評議会の塔――
かつての支配者たちは、怒りと恐怖に染まった目でそれを見下ろしていた。
壁を越える庶民のひとりひとりが、
「かつての秩序が崩れつつある」ことを示す証。
かつての“力”はもう、彼らの手にはなかった。
そして、すべての中心に立つ男――ハルト。
その背を見つめる〈レイス〉の仲間たち。
誰もが理解していた。
彼は、もはや単なる**幽鬼**ではない。
**都市を束ねる“主”**へと変わりつつあったのだ。
ほんの一言でも、皆さんの言葉は、私が物語を書き続ける大きな力になります。
これからも、心を込めて紡いでいきますので、よろしくお願いします!




