力の残響
評議会の間には、重たい香の煙が立ちこめていた。
金細工の装飾と歴史の重みに満ちた空間で、
集まった貴族たちは、普段の威厳を失い、目に見えて動揺していた。
――見たか!?
紫の法衣をまとった老貴族が怒声を上げる。
――やつはヴェルマスを倒しただけじゃない!
アグラモンテを跪かせたんだぞ!しかも――民の前でだ!
黒い羽飾りをつけた令嬢が、毒を含んだ笑みを浮かべる。
――もっと酷かったのは…あのセレーネよ。
貴族の華とも呼ばれた彼女が、あの幽鬼女たちに頭を垂れたのよ。
若き男爵が拳を振り上げ、机を叩いた。
――あの屈辱はアグラモンテ家だけじゃない。
貴族全体への…宣戦布告だ!
脂汗をかいた太った貴族が、震える声で反論する。
――で、どうするつもりだ?
やつらに戦を仕掛けるか? 次のヴェルマスになるか?
重苦しい沈黙が部屋を包んだ。
誰もがわかっていた。
ハルトが倒したのは兵ではない。
――象徴だった。
**
その頃、倉庫裏の即席訓練場では、
セレーネが荒い息を吐きながら膝をついていた。
彼女の前には、リカがギター=剣を構えながら立っていた。
――立て、姫さま。
その重みも耐えられないなら…放電の衝撃で内臓が飛ぶよ?
セレーネは額から汗を流しながら、両膝を地につけた。
だが目は、まだ諦めていなかった。
ルナが近づき、冷徹な口調で告げる。
――敵は、息を整えるのを待ってくれたりしない。
アイコは水の入った瓶を差し出しながら、優しく微笑む。
――やめなければいい。ただ、それだけよ。
レイナは静かにその姿を見つめ、低く呟く。
――一滴の汗は、罪の重さと引き換えになる。
マリは数値を調整しながら、彼女のフォームを修正する。
――無駄な力を使えば…命の燃費はすぐ尽きる。
ミネットは日陰から短剣を投げ、
それはセレーネの頬をかすめて地面に突き刺さった。
――反応できないなら…次は刺さるよ?
その刹那、セレーネの身体が震える。
だが彼女は、ゆっくりと立ち上がった。
両手で訓練用の武器を握りしめ、声を振り絞る。
――やります…!
壊れても…やり抜きます!
**
評議会では、一人の貴族がぽつりとつぶやく。
その声は誰に届くわけでもなく、ただ空気を震わせた。
――アグラモンテの娘までもが…
今や剣を握るなら…
私たちの知っていた世界は…もう終わったのかもしれんな。
**
訓練場の片隅。
ハルトは影の中からそれを見つめていた。
口を開かず、指導もせず――
ただ、彼女たちの意志と変化を見届けていた。
彼が動く必要はなかった。
今、〈レイス〉がセレーネを鍛えていた。
そしてその訓練の残響は、すでに貴族たちの耳へと届いていたのだ。
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