過ちから始まった想い、今はただ彼女を
日が差し込む朝。
村の空はどこまでも澄み切っていて、雲が綿菓子のように流れていた。
風が優しく、光が柔らかい。
こんなに静かで平和な場所に、自分がいるのが不思議だった。
だが今──
その“奇跡のような日常”を、俺は心から受け入れていた。
「ねえ、今日は広場に行ってみない? 市場の日だよ」
ルナが笑いながら言った。
その声は、春の陽気みたいに、心を撫でる。
──ああ、やばい。
最近、彼女が笑うたびに、心臓が跳ねる。
最初は“命令された信頼”だったかもしれない。
でも、今はもう関係ない。
俺は──彼女が好きだ。
村の広場は賑やかだった。
果物や香辛料、手作りのアクセサリーが並び、子どもたちの笑い声が響く。
羊の鳴き声や鍛冶の金属音さえも、どこか心地よく感じる。
そんな中、ルナは人混みの中でもすぐ見つかる。
──その姿が、あまりにも美しかったから。
彼女は、銀色の髪をサイドに編み込み、薄い青色のワンピースを着ていた。
陽の光を浴びるたび、髪は白銀に輝き、風に揺れるたび、その香りがふわりと届く。
肩は華奢で、手首は細く、指先の動きひとつひとつが優雅だった。
笑うと、頬にえくぼができる。
目元は切れ長で涼しげなのに、感情を宿すとすぐに柔らかくなる。
まるで──絵本から抜け出したお姫様のような存在。
でも、彼女はお高くとまったりしない。
小さな花に「かわいい」とつぶやいたり、売り物のリンゴをじっと観察したり、
時々こっちを見て微笑んだり。
その一瞬一瞬が、心に刺さった。
「ねぇ、ハルト。ほら、あの花──あなたに似合いそう」
ルナが笑って、小さな布花のブローチを手に取った。
俺の胸元に当てて、うんうんと頷く。
「ふふ、似合ってる……やっぱり、優しい人だってわかるんだね」
「そんなことないよ。俺なんて……優しくないさ」
本当は、心の底でいつも思ってる。
“君の感情は、本物じゃないかもしれない”
でも──
それでもいいと、最近思うようになってきた。
君が俺のそばで笑ってくれるなら。
それが命令のせいでも、今この気持ちは嘘じゃない。
俺は、本当に──君が好きだ。
「ねぇ、ハルト」
「……この村で、ずっと一緒にいられたらいいね」
その言葉に、喉が詰まった。
──それが、何よりも欲しかった未来。
でも、それがどこか偽りの上に成り立ってる現実も、知っている。
なのに、俺は……言ってしまった。
「……うん。ずっと一緒にいよう、ルナ」
その瞬間、ルナは嬉しそうに笑った。
──その笑顔は、世界で一番美しかった。
もう、戻れない。
あの時の一行の命令が、
俺の人生のすべてを変えてしまった。
でも今の俺には、
それすらも──どうでもよくなっていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は少し穏やかで、でも静かに深まる感情の回でした。
皆さんなら、この恋を“正しい”と言えますか?
よければ、お気に入り・評価・コメントで応援していただけると励みになります!