響き渡る名
夜が明け、街には噂が渦巻いていた。
漆黒の百剣隊の死体は未だ市場広場に転がり、
その槍は骨のように砕け、
ヴェルマスの黄金の鎧は、ただの骸となって朝日に晒されていた。
だが、本当に広がったのは血の臭いではない。
それは――名だった。
「見たか……?」
震える声で呟く商人。
「たった一晩で、男一人と六人の女が、無敵のヴェルマスを倒したんだぞ!」
「市場の子供たちを救ったらしい。」
「囚人を鎖から解き放ったそうだ。」
「貴族に正面から挑んだ者など、今までいなかった!」
どの角でも、どの露店でも、その声が繰り返される。
「レイス……」
恐れと共に語る者もいれば、
希望と共に口にする者もいた。
だが、誰もがその名を忘れなかった。
高塔の最上階では、貴族たちが恐怖に満ちた会議を開いていた。
誇りに満ちていた壁は、今や自らの墓標のように冷たく見えた。
「ヴ、ヴェルマスが……やられた……!」
脂汗を流し、言葉にならない商人。
「あの男は二十年、戦いの最前線に立っていた! 我らの防壁だったのに!」
黒い絹の貴婦人は、唇を固く閉じる。
「壊れた壁など、誰も守れないわ。」
宗教長老がふらつきながら立ち上がった。
「あり得ぬ……最大魔法を無効化するなど、人間の仕業ではない! それは異端だ!」
だが、誰も反論せず、
ただ互いの目に浮かぶのは――同じ恐怖だった。
「我々は……どうすれば?」
震える声で一人が問う。
「ヴェルマスさえ倒されたなら、我々にどんな希望が残っているのだ……?」
沈黙だけが答えだった。
一方、瓦礫に包まれた市場では、
救われた子供を抱く母たち、
解放された老人たちが、涙を流し、呟く。
「彼らが……助けてくれたの。」
「貴族たちが何を言おうと、あの少女たちとあの男は……違う。」
そして、世代を超えて初めて、
誰かがはっきりと言葉にした。
「もしかして……貴族は神じゃないのかもしれない。」
王宮の一室。
仮設の作戦室にて、マリが投影する情報を静かに見つめるハルト。
その名は、もう都市中の唇にのぼっていた。
「民衆は目覚め始めた……」
冷たい声でハルトは呟く。
「そして貴族たちは、ようやく震え始めた。」
リカが笑いながらギターの弦を調整する。
「やっとあたしたちが、この舞台の主役になれたってワケね!」
レイナは真剣な顔で言った。
「でも忘れないで、ハルト。
救世主か、死神か――名の意味は、語る者によって変わるわ。」
ハルトはコンソールを閉じ、闇の中で歪んだ笑みを浮かべた。
「呼び方はどうでもいい。
ただ一つ確かなのは――今日から、
貴族たちは安眠できなくなったってことさ。」
街全体がその名を囁いていた。
レイス。
民にとっては――救済者。
貴族にとっては――滅びの使徒。
そしてその対比こそが、
この都市の運命を永遠に変える伝説の始まりとなった。
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