消えゆく咆哮
下層市場の広場は、煙と叫びで包まれていた。
完璧な行進で侵入した《漆黒の百剣隊》は、今やその規律を失い崩れかけていた。
民衆は強引に開かれた通路を通って逃げ出し、
その混沌の中心で、目覚めた《レイス》たちの力が亡霊のように舞っていた。
リカ ―《戦乙女の雷鳴》
ギターから響いた一音が、空間に電撃のように走る。
兵士たちの鎧が震え、次々とひび割れた。
何人かは痙攣し、槍を落とし、戦意を喪失する。
リカは回転しながら高笑いする。
「ほら、アンタの軍隊、ズレてきたわね！」
マリ ―《呪われし塔》
黒いプレートが地面から出現し、
空中に浮かぶ砦が形成される。
塔の頂から放たれた雷が、隊長格の兵士たちを貫き、
エネルギーの鎖が兵を宙に吊り上げた。
マリは中枢核を微調整しながら静かに言う。
「エリア・コントロール…完了。」
アイコ ―《錬金の反応》
薬品が爆ぜ、青と緑の煙が立ち込める。
酸が落ちた鎖は一瞬で溶け、市民たちは自由を取り戻した。
一人の母親と娘がアイコの前を通り抜け、涙ながらに抱きしめた。
アイコも微笑んで泣く。
「もう…誰の奴隷でもない…！」
その煙は兵士たちを麻痺させながらも、民には害を及ぼさなかった。
レイナ ―《タナトスの旋律》
レイナは静かに歩きながら、ほとんど祈りのような旋律を歌う。
その歌を聞いた兵士たちは数秒で老化し、
皺だらけの顔となって崩れ落ちる。
レイナは目を閉じ、静かに祈るように言った。
「安らかに…死を与えるのは、私。」
ルナ ―《宇宙蝕》
月の剣が輝くと、昼であるはずの空に星が現れた。
小さな隕石群が降り注ぎ、陣形の中心を貫いた。
爆発が空間を開き、逃げる市民たちの道ができる。
ルナは剣先でヴェルマスを指しながら言う。
「軍勢でも黄金でも、星の力には勝てない。」
ミネット ―《影の舞》
煙の中を風のように滑り込む。
軽やかな剣は、縄も喉も同じ精度で斬った。
兵士たちの目には、複数のミネットが見えた。
その速さが残像のような幻を作り出していたのだ。
隊長の一人が、一撃を受け倒れるが、何が起こったかすら理解できなかった。
ミネットは無表情で刃を拭った。
「影は、決して外さない。」
子どもたちが逃げ、
母親たちが子を抱き、
老人たちが涙を流す。
誰かが、初めて彼らのために戦っているのだと感じながら。
その中で、人々の口からささやかれ始めた名があった。
「レイスたち……」
ヴェルマス卿は広場の中央で猛獣のように吠える。
「我が《百剣隊》が敗れるはずがない！！」
彼は壇上から跳躍し、黄金の剣を掲げたまま、ハルトに向かって突進する。
ハルトは静かに歩み寄りながら、空中に浮かぶコンソールを操作した。
>> scan("Velmouth.attack")
>> inject("delay:0.4s")
剣が振り下ろされた――が、
わずかに遅れていた。
ハルトは無理なく身をかわし、冷たい目でヴェルマスを見下ろす。
「お前の軍、お前の規律、そしてその咆哮――
すべて、かつて俺を壊したシステムと同じだ。」
彼は目を細めて囁いた。
「だからこそ――削除される運命なのさ。」
背後には、雷、火、影を纏った仲間たち。
彼らの名はもう、ただの噂ではなかった。
人々の心に刻まれていた。
ハルトは手を下ろし、広場に響く声で言い放つ。
「俺たちは《レイス》。
――そして、お前の咆哮は、ここで終わる。」
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