レイスの目覚め
下層の市場広場は、鉄と規律の人間の壁に覆われていた。
《漆黒の百剣隊》が完璧な隊列で行進し、槍はまるで無数の針の群れのように光を放っていた。
彼らの進軍により、貧民は押しのけられ、無慈悲に殴りつけられていた。
ダルガン・ヴェルマス卿が黄金の剣を掲げ、咆哮する。
「貴族の権威は、決して揺るがぬ! 今日でこの茶番は終わりだ!」
兵士たちの金属音のような掛け声が、機械のような精度で響く。
高い屋根の上、ハルトと仲間たちはその光景を見下ろしていた。
あの、ブーツの音。
繰り返される機械のような動き――
ハルトの脳裏に、過去の記憶がよみがえる。
無数の社員が無表情で画面に向かい、無限のルーチンを繰り返す、あの職場。
その背後で怒鳴る上司の声:
「もっと速く! 考えるな、言われた通りに動け! 数字が合えば、それでいい!」
冷たい白色灯、動かぬ時計、意味不明な命令のメール。
――この光景は、それと何も変わらない。
歯を食いしばり、呟く。
「……同じだ。ただ、グラフの代わりに槍を持ってるだけ。」
彼は静かに、コンソールを開いた。
緑のコードが走り、光るルーンが空間に重なっていく。
>> upgrade(allies.skills)
>> Reina: add("タナトスの旋律")
>> Rika: add("ヴァルキュリア・ブリッツ")
>> Mari: add("呪われし要塞")
>> Aiko: add("錬金の嵐")
>> Luna: add("宇宙蝕")
>> Minette: add("幻影の刃")
仲間たちの武器が共鳴し、
火花、影、旋律、炎――それぞれの中に、新たな力が目覚めていくのを感じた。
ハルトは目を閉じて呟いた。
「もう、命令される側には戻らない。
今度こそ、システムを――書き換える。」
最初に飛び出したのはリカ。ギターを振りかざし、
爆音のコードが兵の前列を吹き飛ばす。
「復讐のド、増幅中!」
マリは地面から黒い塔を出現させ、隊列を分断。
「この盤面――今や私のもの。」
アイコは蒼い霧を巻き起こす錬金術を展開。
兵士たちは咳き込み、麻痺して倒れ、民衆はその隙に逃げ出す。
「早く逃げて…!」
レイナは死の旋律を奏でる。
その音を聞いた兵たちは、老いとともに崩れ落ちていく。
「時とは、与えるも奪うも――私の手にある。」
ルナは星空の幻を召喚し、隕石を槍の列に降らせる。
「規律など、星の海には通じない。」
ミネットは影となって現れ、音もなく斬り裂く。
誰も、彼女の刃の軌跡すら見えなかった。
その中心で、ハルトは手を伸ばした。
>> scan("Velmouth.Army")
>> inject("desync.protocol")
兵の動きが乱れる。
隊列は崩れ、槍は遅れ、連携は途切れた。
ヴェルマスの完璧な機械軍は、壊れた人形の群れへと成り下がる。
ヴェルマスは怒りに吠える。
「我が《百剣隊》は決して崩れぬ!」
彼は壇上から跳び、黄金の剣を振りかざしながらハルトへと突進した。
だが、ハルトは微動だにせず、静かに彼を見据えた。
「俺にもいたよ。“人間を機械としか見ない”上司がな。
でもな――そいつも、結局は墜ちた。」
彼の背後には、炎と稲妻と影に包まれた仲間たち。
路地や廃墟から、民衆が見守っていた。
その目に映るのは――犠牲者ではない。
権力に抗う亡霊たちだった。
ハルトは静かに手を下ろし、宣言した。
「俺たちは英雄でも、聖人でも、軍人でもない。
俺たちは――レイス(亡霊)だ。
この腐ったシステムを――抹消しに来た。」
広場は燃え、混乱の中で、民は自由を得る。
ヴェルマスの軍は崩壊した。
そしてその夜、
“レイス”という名が――街の記憶に刻まれた。
この章を気に入っていただけたら、ぜひ★やブックマークをお願いします!応援が物語を進める大きな力になります!
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。
この作品をいつかランキングに載せたいという夢があります。
そのためには皆さまの応援が必要です。
感想やご意見、ご評価をいただけると、とても励みになります。
これからもどうぞよろしくお願いします!