漆黒の百剣隊(エボニー・ワンハンドレッド)
朝日の光が、下層の市場広場を照らす。
だが、そこに笑い声や喧騒はなかった。
あるのは、重苦しい沈黙と、無数の金属音――
《漆黒の百剣隊》が行進していた。
漆黒の盾と槍を掲げ、完璧な隊列を組んだ百の兵が、
通りをまるで鉄の壁のように覆い尽くしていた。
兵の通過に合わせて、商人は追い払われ、
子どもは泣き叫び、老人は家から引きずり出される。
一人の男が妻を守ろうと立ちはだかるも、
兵士の一撃で地面に叩きつけられた。
兵たちは笑う。誰一人、足を止めることはなかった。
即席の壇上に、
黄金の儀礼鎧を身にまとったダルガン・ヴェルマス卿が姿を現す。
その声は戦鼓のように轟いた。
「この街の民よ!」
「聞いたぞ――愚か者どもが我らの秩序に挑んだと。」
「影の暗殺者すら倒した、だと?」
彼は地面に唾を吐き、侮蔑の笑みを浮かべた。
「名など知らんし、興味もない。
だが一つだけ、確かなことがある。
ヴェルマスの軍律に、抗える者などいない!」
剣を空に掲げると、百の兵が槍で地を打ち鳴らす。
市場全体がその衝撃で震えた。
「さあ、巣穴から這い出てこい、臆病者ども!」
「貴族に牙を剥いたその首、我が軍の足元に転がしてくれるわ!」
数街区先、屋根の上に潜む者たちがいた。
ハルトと仲間たち――彼らは沈黙の中、広場を見下ろしていた。
テリアが歯を食いしばる。
「……あいつ……あいつも、私を壊した奴らと同じ目をしてる。」
アイコは震えながら杖を抱きしめる。
「罪のない人たちが……ハルト、助けなきゃ……!」
リカは肩にギターを乗せ、飄々と笑った。
「ふふ、あいつ、自分が何に喧嘩売ったか分かってない。最高だね。」
マリの浮遊コアが淡く光り、兵の陣形を分析している。
「規律はある。でも、パターンは単純。干渉すれば……崩れる。」
レイナは静かにハルトを見つめ、問う。
「――決断は?」
ハルトは静かに、見えないコンソールを開いた。
緑のコードが空間を走り、軍の構造を読み取っていく。
>> scan("Velmouth.Army")
>> detect(patterns)
>> exploit("coordination")
彼は静かに笑う。
「見せつけたいんだな。市民の前で“力”を。」
「――なら、その場で崩してやろう。」
広場は恐怖の舞台と化していた。
だが、ヴェルマス卿はまだ知らない。
“敵”はすでに頭上から見下ろしているということを。
漆黒の百剣隊の咆哮が、広場を満たす中――
ハルトは、コンソールを閉じながら静かに呟いた。
「――このシステム、そろそろクリーンアップの時間だ。」
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