選択の代償(せんたくのだいしょう)
大理石の広間には、まだ鉄と恐怖の匂いが残っていた。
三人の貴族は床に倒れ、紅い血が広がっていた。
テリアは剣を手に立ち尽くし、息を荒げながら、怒りと涙に濡れた目で前を見据えていた。
誰も動かない。
誰も口を開かない。
静寂を破ったのは、ハルトの一歩だった。
「見ただろう。
彼女は——選んだ」
その声は静かでありながら、誰の耳にも強く響いた。
「その選択が残酷に見えても、
この世界が受け入れる“唯一の真実”だ」
ハルトはゆっくりと仲間たちに視線を向けた。
「思いやりは腹を満たさない。
祈りは命を救わない。
鎖を断ち切るのは——力だけだ」
テリアは歯を食いしばり、震える声で言った。
「彼らは、私に何一つ与えなかった。
奪っただけ……」
「友達、家族、希望。
全部あいつらが食卓で笑ってる間に消えていった……」
彼女は仲間たちを見つめながら、涙を流したまま続ける。
「……これで私が怪物になったとしても構わない。
でも私は、死んだ奴隷より、生きてる怪物でいたいの」
リカはギターを肩にかけ、腕を組んだ。
「それでいいんだよ。
人生は容赦なんかしてくれない。
迷うやつから消えるんだ」
マリは冷静に浮遊するコアを操作しながら言った。
「論理的に見ても、腐った根を残せばまた腐る。
テリアの行動は——合理的だ」
レイナは静かに目を閉じ、光るティアラに手を添えた。
「私は、流血を肯定したくはない。
でもこれは……正義だった。
この街を変えるなら、貴族も地に落ちねばならない」
アイコは涙をこらえながら、胸に杖を抱きしめた。
「つらい……でも、わかるよ……
彼女のように、大切な人を失いたくない。
ハルトが導くなら、私は……ついていく」
ミネットは冷たく微笑みながら、短剣を回した。
「血じゃない。
本当に怖いのは“迷い”よ。
そして彼女は迷わなかった。それだけで十分」
ルナはしばらく黙っていた。
手は震え、呼吸は浅く、目は揺れていた。
だが、テリアの顔を見た瞬間——その覚悟を見た瞬間、彼女は一歩前に出た。
「……最初は、信じられなかった。
こんなことをしたら、彼女は壊れてしまうって」
「でも……間違ってた」
ルナは青い剣を持ち上げ、まっすぐな眼差しで言う。
「テリアは、正しい。
この世界に慈悲はない。
生きるためには、みんなで手を汚さないといけない」
彼女はハルトを見つめた。
その瞳には、隠しきれない熱が宿っていた。
「それに……私は彼を、愛してる。
だから、血に染まった道でも、彼となら——進む」
場が凍りついた。
テリアさえ目を見開いた。
ハルトは、わずかに微笑み、首を傾けた。
「愛か……
危険なバグだが、使い道はある」
彼は見えないコンソールを閉じ、鋭く光る目で告げた。
「じゃあ、決まりだな」
「君たちはもう、仲間じゃない」
「共犯者だ」
剣を握るテリアの周りに、全員が集まった。
誰も彼女を責めなかった。
誰も拒まなかった。
そして、張り詰めた沈黙の中で——
ハルトは、まるで審判のように冷たく宣言した。
「今日から——この街は腐った連中のものじゃない」
「俺たちのものだ」
その顔に浮かぶ歪んだ笑みは、決して“英雄”のものではなかった。
けれど、その夜——誰一人、それを否定しようとはしなかった。
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