腐敗した都市の影
戦いの後に残ったのは、剣のぶつかり合いよりも重たい沈黙だった。
閉ざされた扉。隙間から覗く怯えた瞳。
この街では、英雄など求められていない。
「……行こう」
ハルトがマントを整えながら言った。
「ここに長居するのは危険だ」
ピンク色の髪をした少女――テリアは、震える足取りでその後に続いた。
その背を守るようにミネットが無言でついていく。まるで、またいつ兵士が襲ってくるかわからないかのように。
「……助けたのに、感謝どころか……こんな扱いって、普通なの?」
レイナが小声でつぶやいた。
「ここじゃ、感謝するのにも金がいる」
リカが吐き捨てるように言った。
マリは魔導端末を確認し、表示された警告を読んだ。
社会汚染:危険レベル
格差指数:極端
そのとき、少女がぽつりとつぶやいた。
「……私、テリアって言います」
全員が振り向いた。
声はかすれていて、言葉を発するのも辛そうだった。
「男の名前を使わなきゃ、生き残れないんです。
ここで“女”ってだけで、もう商品ですから」
ルナの拳が剣の柄を強く握りしめる。
「……衛兵たちは、そんなことを見過ごしてるの?」
「いいえ――」
テリアは皮肉な笑みを浮かべた。
「“売ってる”のは、あの人たちです」
その言葉が場の空気に毒のように染み渡る。
誰も返せなかった。
ただ、ハルトだけが静かに微笑んだ。
その微笑みには、いつもの冷静さとは違う“危うさ”があった。
「完璧だ。――じゃあ、始める場所は決まったな」
その瞬間、重々しい金属音が路地の外から響いてきた。
武装した車両が、金属製の獣に引かれて通りを進んでくる。
その上には銀の仮面をつけた貴族たち。まるで地面を“舞台”のように見下ろしていた。
テリアの体がびくりと震え、ハルトの背に身を寄せる。
「……“回収者”の巡回隊です。
倒れた兵士を見られたら……皆殺しにされます」
リカが身を屈め、囁いた。
「どうする? 戦う? それとも、逃げる?」
マリが端末を睨みつける。
「戦力差、兵装、魔力障壁――……コストが高すぎる。
やるなら、それなりの“覚悟”が必要」
ルナが視線をテリアへ向ける。
「でも……放っておけば、彼女はまた囚われる」
金属の脚音が迫る。
路地の入り口に、車両の影が落ちた。
そのとき――
ハルトが呟いた。
その声には、火薬のような危うさと鋼のような決意が宿っていた。
「……俺は、迎え撃つ派だ」
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