それは記録にないんだけど!?
朝は穏やかだった。……あまりにも、穏やかすぎた。
ここ数日の激しい戦闘を経て、ハルトは仲間たちに「完全休息日」を宣言していた。
キャンプは、小さな小川のそばに設置され、古代の安全な遺跡に囲まれている。
空気は湿った石とハーブの香りに満ちていて、風すらも眠たそうだった。
「今日は訓練なしだ」
ハルトが伸びをしながら宣言した。
「するのは、掃除、飯、そして昼寝だけ」
「神かよ……」
レイナが毛布の上にバタンと倒れ込んだ。
リカはすでに木の下で寝息を立てている。
マリは新品のノートを取り出し、
アイコは湯を沸かしながら穏やかな笑みを浮かべていた。
そして――ミネットは、小川のほとりで制服を手洗いしていた。
「ねえハルトー! 石鹸まだある?」
川岸から彼女の声が飛ぶ。
「ああ、黒いバッグの中だ。そっちは大丈夫か?」
「うん、もうすぐ終わりそう!」
ジャケットをぎゅっと絞りながら答えるミネット。
……そして、事件は起きた。
布を取ろうとして前屈みになった瞬間、
ぬかるんだ地面で、ほんのわずかにバランスを崩した。
地面に転んだわけではない。
ただ――彼女の「タオル」が、ずり落ちたのだ。
……数秒の、凍りつく沈黙。
ミネットはその場で完全に硬直した。
下着は着ていた。暗色のものに、ぴったりしたインナーシャツ。
だが濡れた布が肌に張り付き、もはや“防御力ゼロ”。
そしてそこに現れたのは――
あらゆる物理法則を嘲笑う、双峰の存在。
全員の視線が吸い寄せられた。
「……データにないんだけど」
マリが眼鏡をずらして、ぽそっと呟いた。
「何なの!? 何を隠してたの!?」
レイナが枕を放り投げる。
「うわぁぁ……! 伝説級……!」
アイコが目を輝かせる。
半分寝ていたリカですら片眉を上げて一言。
「……隠しレベル、解放っと」
ミネットは――気づいたのが、少し遅れた。
頬が一瞬で真紅に染まり、
甲高い悲鳴とともに岩陰へジャンプ。
両手で身体を抱きしめながら怒鳴った。
「見んなバカアアアアアアアア!!!!」
ハルトは、反射的に振り向いた結果――口の中のパンでむせた。
「えっ!? 今までどうやって隠してたの!?!?」
「しょ、しょうがないでしょ!? 子供の頃からコルセットしてたの!!!」
「……なるほど、それでいつも猫背だったのか」
マリが冷静にノートへ書き込む。
「やめろおおお! そのノートを今すぐ燃やせええええ!!」
ハルトは頭をかきながらため息をつく。
「なるほど……つまりミネットの隠しクラスは“重火器使い”だったんだな」
ミネットは岩陰から石を投げつけた。
そして――キャンプ全体が、爆笑に包まれた。
後に、服を着直し、尊厳を――まあ半分くらい――取り戻したミネットは、腕を組んで皆を睨みつけた。
「……これ以上、一言でも言ったら……
魔法の短剣で刺すから」
その目は本気だった。
ハルトは両手を上げ、平和のジェスチャーを示す。
「何も言わないさ……ただし、その“補正テープ”の秘密を共有してくれるならな。
マリがもう欲しがってるぞ」
「ハルトォォォ!!」
……次の瞬間、サンダルが空を切って飛んだ。