命令された信頼と、壊れ始めた心
「……あなた、どこから来たの?」
ルナはそう言って、じっと俺を見つめていた。
瞳は揺れず、声にも迷いがない。
まるで、こちらの動揺を見透かすような視線。
この世界で初めて出会った人間──
なのに、もうすでに心を読まれている気がした。
「それは……ちょっと複雑で」
「複雑でも、答えはあるでしょ?」
返す言葉に詰まる。
俺の正体は説明できない。いや──してはいけない気がした。
俺の力を知れば、彼女はどう思うだろう?
気味悪がる? 怖がる? 村に報告する?
そんな想像が、胸の奥に重くのしかかる。
「でも、なんか……変な人だね」
ルナは笑うように言ったが、その笑顔は試すようなものだった。
まるで、俺の“本性”を探っているみたいに。
「…………」
だめだ。
心臓がうるさい。
手が震える。
うまく話せない。
このままじゃ、彼女は──
その時、手が勝手に動いた。
コンソールを開く。
まるで、バグったプログラムみたいに、指が勝手に動いた。
target("Luna").setEmotion("trust", 1.0)
──実行。
一瞬、世界が静止したように感じた。
そして──
ルナの目が、柔らかくなった。
「……ごめんね、なんか疑ってばっかりで。信じてるよ、あなたのこと」
笑った。
自然に。
綺麗に。
優しく。
──不自然なくらいに。
俺の中で、何かが壊れた音がした。
(……違う。これは、ルナの本当の感情じゃない)
俺が、書き換えた。
“信じる”という感情を、強制的に植え付けた。
彼女は、俺を疑っていた。
それが本来の反応だった。
それこそが、人間らしさだったのに──
「私、あなたのこと……もっと知りたいかも」
ルナが微笑んだ。
でもその笑顔が、俺には悲しく見えた。
自分で奪った“真実の反応”。
本当なら、時間をかけて得られたかもしれない絆。
それを──俺は、コード一行で壊した。
この世界で初めて触れた「人間」は、
俺の手で、一行の命令に従うだけの存在に変わってしまった。
──それがどれほど、取り返しのつかないことかも知らずに。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、主人公が初めて「他人」を編集してしまう瞬間でした。
彼の選択は正しかったのか? 今後、それがどう影響するのか──ぜひご注目ください。
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