これは、俺の“選択”だ
夜明けがヴァルネスの大地を黄金の光で包んでいた。
風は穏やかで――久しぶりに、世界が「静けさ」を取り戻したようだった。
ハルトは村の門の前に立っていた。
その背後では、仲間たちが出発の準備をしていた。
ルナは無言でリュックを握りしめ、
レイナとマリは最も効率的なルートについて議論中。
アイコは空を見上げており、まだ「生き延びている」ことに実感がないようだった。
そしてリカは、ギター型の大鎌のケースを静かに背負っていた。
村人たちが見送りに集まり、
涙を流す者、拍手を送る者もいた。
「ありがとう、レイスたち!」
「またいつか戻ってきて!」
「私たちのヒーロー!」
ハルトは微笑んだ――
今度は、心から。
かつてなら、こうした言葉は「偽り」に聞こえた。
心の奥では、まだあの命令が響いていた。
――「信頼度:100%」
けれど、もうその痛みはなかった。
ルナは自分の意思で、彼のそばにいた。
リカは自ら変わり始めた。
このチームは魔法で縛られたものではない。
選び取った絆だった。
「準備はいい?」とルナが聞いた。
「ああ。もう迷いはない」
「何に対して?」
ハルトはすぐには答えなかった。
彼は両手を見つめた。
かつて、最も忌み嫌ったこの手を。
(今度こそ――この手で作るものは、本物だ。
どう始まったとしても)
歩き出す音が響く。
村の人々の声が背中に届いていたが、
その先にある道は、誰にも分からない未踏の地。
そして、遥かに危険だった。
――最高だ。
数時間後、一行は森の中で短い休憩を取った。
他の少女たちがテントを張っている間、
ハルトはリカと二人きりで腰を下ろした。
「ここまで来るなんて、思ってなかっただろ?」
「全っ然思ってなかった」
リカは肩をすくめて笑った。
「でも、正直……この感じ、嫌いじゃない。
外の空気、スリル、誰にも命令されないっていう自由」
ハルトは微笑んだ。
「じゃあ、しっかりついてこい。
これは、始まりにすぎないんだから」
リカは彼を横目でちらりと見て、
わずかに頬を赤らめた。
「別に、あんたのこと好きとかじゃないけどさ……
死んだら、魂ぶん殴るからな」
「死なないって、約束する」
少し離れた岩の上で、マリとアイコが彼らの様子を見ていた。
マリは壊れかけた端末を調整しながら、小さく呟く。
「なんで見ちゃうんだろう……
自分でも、何を感じてるのか分からないのに」
アイコは答えなかった。
ただ自分の膝を抱きしめていた。
さらにその背後――
ルナは全員を見守っていた。
そこに嫉妬はなかった。
あったのは、静かな受容。
(彼はもう過去に縛られていない。
それだけで、十分)
その夜――
星空の下で、ハルトはこれまで抱けなかったある想いに身を委ねた。
(俺は――失敗作じゃない。
偽物じゃない。
今、手にしてるものは……俺のものだ)
そして、彼は初めて――
穏やかに眠った。
新たな地へ。新たな関係へ。
自分を赦すことは、時に最大の“戦い”。
次回、新章突入──危険な王都への旅路が始まる。
お気に入り・評価、いつもありがとうございます!




