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コードの炎と、人の声

風が吹いていた。

それが自然の風なのか、コードで生成された擬似風なのか、俺にはもう分からない。


ここは《レグノス》という世界。

あの日、死んで──気づけばこの、情報で構成された異世界にいた。


すべてがコードで動いている。

重力、気温、地形、モンスター。

感情すら──システム上のパラメータで制御可能。


神から与えられた魔法《編集コンソール》。

それは、この世界の構造そのものを操作できる能力だった。


だが今回は、他人ではなく──俺自身を編集する。


俺は森の奥で、一人コンソールを開いた。


「まずは……火の魔法を作ろうか」


試しに、スキルを直接追加する。

target("me").addSkill("Ignite")

エラー:要素属性が定義されていません


「やっぱりか……」


スキルには属性ベースが必要らしい。

火──つまり、燃焼に必要な物質。


「……硫黄だな。Sulfur」


現実世界の知識が役立つとは思わなかった。

target("me").addElement("sulfur")

target("me").addSkill("Ignite")

コマンド実行。


次の瞬間、右手がじわりと熱を帯びた。

指先に炎が灯り、赤くゆらめく。


「……おお……!」


痛みはない。

だが熱さは本物。皮膚が焼ける感覚すらある。


魔法ではない。

これは、現実を直接書き換える力だ。


その興奮のまま、冷気系スキルにも挑戦。

target("me").addElement("nitrogen")

target("me").addSkill("Freeze")

今度は、手のひらが青白く変色し、空気が急激に冷たくなった。


地面が凍り、草が霜に覆われる。


だが──


「……っ……頭が……冷える……」


視界がにじむ。

意識が重い。思考が鈍くなり、感情が薄れていく。


メモ:氷属性は神経伝達に影響を与える可能性アリ


これは単なるスキルじゃない。

自分を改造するということは、バグを自分に埋め込むことだ。


そんな時だった。


「……それ、あなたの魔法?」


誰かの声が、静かに響いた。


振り返ると、木の陰に少女が立っていた。


銀髪。白いブラウスと薄いマント。

年は俺と同じくらいか、少し下か。


だが目が印象的だった。

澄んでいるのに、どこか……世界に違和感を持っている目。


「……誰?」


「私はルナ。ここの村から来たの」

「……さっきから見てた。あなた、自分に何かしてたよね?」


俺は言葉に詰まった。


どう説明する? 異世界転生? コンソール魔法?

いや、バカバカしい。


「……見せたくてやってたわけじゃない」


「そうだよね。でも……」

彼女は一歩近づいた。


「魔法って、普通はあんな風に手で“打ち込む”ものじゃない。あなたのそれ、何かが違う」


俺は、彼女の目をまっすぐ見返す。


この子は、普通の村人じゃない。

でも、システムの一部でもない。


人間だ。ちゃんとした、感情を持つ存在。


俺は無意識に、コンソールを見た。

target("Luna").setEmotion("trust", 1.0)

打とうとした。けど──手が止まる。


「……いや、違うな」


「なにか……書こうとした?」


彼女が俺の動きを見て、そう聞いてきた。


「いや……ちょっと迷っただけ」


なぜ迷ったのか。

なぜ、書かなかったのか。


たぶん俺は、本物の信頼を得たかったんだ。


システムで作った感情じゃなくて──

自分という人間を、誰かに認めてほしかった。


そして今、目の前にいるのは。

その“誰か”かもしれないと思った。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

この実験的な魔法システムや、コードと感情の融合が面白いと思った方は、ぜひ「お気に入り」や「評価」ボタンをポチッとお願いします!

コメントも大歓迎です!次回はルナとの初対話、そして……さらなる自己改造?

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