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鼓動する心──初めての「力」

夜明け。

太陽がまだ森の端を照らし始めたばかりなのに、彼らはもう歩き出していた。

霧が地面を這い、湿った布のように足元に絡みつく。


――この方角なら日暮れ前に村に着くはずだ。

ハルトが粗末な地図を確認しながら言う。

ルナがうなずき、隣を歩く。


少女たちは列を組んで後ろに続く。

軽い荷物、険しい顔。

だがその瞳には、数日前にはなかった「生気」が宿っていた。


リカは先頭を歩く。

誰に押されることもなく、自らの足で。


道中の休憩はすべて訓練だった。

腕立て、呼吸法、柔軟。

すべてハルトとルナの号令で数えられる。


――リカは文句を言わない。

それどころか、アヤコが弱音を吐けば声を張り上げ、マリが止まれば腕を振って鼓舞する。


「まだいける! 止まるな!」


「命令すんな!」とレイナが悪態をつくが、それでも走り続ける。


遠目から見ていたハルトの目が細くなる。

姿勢が変わった。

ただ生き延びるためじゃない。

彼女は「作り変えられている」。


「……変わり始めたな」ルナが低く言う。

「分かってる。しかも速い」

「授けるのか?」

「まだだ」



数時間後。


獣道は狭まり、茂みが深くなった。


――そのとき。


森を裂くような咆哮。

地面がわずかに震え、空気が凍りつく。


現れたのは怪物の熊だった。

常の二倍はある巨体。

灰色の皮膚は骨の板で覆われ、黒い爪は岩を砕けそうなほど鋭い。

目は血に濡れたように赤く光っていた。


「な、なにあれ!?」アヤコが悲鳴を上げる。

「なんでモンスターが!? 予定にない、予定にないのに!」マリが震える。

レイナは声も出ない。


「下がれ!」ルナが叫び、前に躍り出る。

手早く障壁を展開し、熊の突進を鈍らせる。


「ルナ、危険すぎる!」ハルトが駆ける。

「今の私じゃこれしかできない!」彼女の顔は張り詰めていた。


熊の前脚が振り上がる。


――その瞬間。


「リカがいない!?」アヤコが振り返る。


そう、彼女はもう走り出していた。

刃こぼれしたナイフを握りしめ、ただ肉体だけで。


「バカなの!?」マリが叫ぶ。


「止めるな!」ルナの声が鋭く響く。

「彼女に任せろ!」


リカは転がって一撃をかわし、木の根を踏み台に跳ぶ。

熊の脚へ渾身の突き。

傷は浅い。


振り払われ、血を吐きながらも立ち上がる。

再び走り出す。


――ハルトが小さく呟いた。

「……もう十分だ」


脳裏にコンソールが点滅する。


【緊急スキル転送:対象 リカ・カンザキ】

・パッシブ:反射神経強化

・アクティブ:殺走の一歩

・アクティブ:臨界脈動

条件:戦う意志の承認


「……転送、許可」


淡い光がリカの身体を包む。


彼女はそれを感じた。

空気。振動。

世界が応える感覚。


「これ……魔法……!?」


次の瞬間、熊の爪を人ならざる反射でかわし、地を滑る。

姿が消え、次には背後に。


刃は狙い澄まされていた。

骨の隙間――頭蓋と背骨の接合部。


鋭い悲鳴。

熊は痙攣し、地を揺らして崩れた。


沈黙。


誰も動けなかった。


息を荒げながらも、リカは立っていた。

「……生きてる?」


障壁を消したルナが、珍しく口元をほころばせる。

「それどころか……力を得たんだ」


ハルトが歩み寄り、低く告げる。

「お前は勝ち取った」


リカの目が一瞬光る。

涙ではない。誇りの炎。


「全部寄越せ。まだ足りない」



再び歩き出す一行。

だが今の沈黙は重さでも恐怖でもなかった。


――敬意だった。

力を「貰う」んじゃない。

自分で「掴む」もの。

リカの初の覚醒──

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