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剥き出しの本能──そして、ナイフの意味

—今日は近接戦闘の訓練だ ――ハルトが告げた。まだ陽は枝の隙間からわずかに顔を出したばかりだった。

――相手がお前たちを「殺すつもりで目の前に立つ」ということを、身体で学べ。


少女たちは前日の疲労で既に限界に近かった。

身体は痛み、気力はすり減っている。

それでも後戻りはなかった。


「わ、私たちで殴り合うの?」とマリが力なく聞く。


「違う」

ルナが丘から降りてきた。足取りは静かで、声は鋼のように硬かった。

「相手は私だ」


沈黙。


「なっ……!?」レイナが叫ぶ。

「意味ないわ! あなたは格が違う!」アイコが目を見開いた。


「その通りだ」ルナは淡々と答える。

「だからこそ、自分がどれほど無力かをはっきり知れる」


――最初に出たのはレイナだった。


動きは飾りのような所作。礼でもするかのように腕を伸ばした瞬間、

ルナは指先ひとつで崩した。関節を極め、床に叩きつける。


レイナは起き上がれなかった。


次はマリ。

「死角から回り込めば――ぐっ!」

空中で捕まり、子供の人形のように振り回され、地面に落とされた。


「頭を使うのはいい。だが首を晒したままでは意味がない」

ルナの声は冷ややかだった。


アイコは泣きながら立ちすくんだ。

「いや……いや……殴られたくない……怖い……」

踏み出す前に足をもつれさせ、膝をついた。


――そして、リカの番。


場は静まり返った。

彼女はジャケットを脱ぎ捨て、歩み出る。

呼吸は整い、目はルナだけを捉えている。


「私は他の奴らとも殴り合ったことがある」リカは低く言った。

「でも……あんたは違う。人間じゃないんだろ?」


ルナは答えなかった。


リカの拳が走る。ルナはかわす。

蹴りが唸る。片手で受け止められる。


「もっとだ」とルナは言った。


「止めるな!」リカは笑った。

連撃。低い打撃、速い突き。だがルナは反撃しない。ただ見ていた。


そして――リカはそれを出した。


尻のポケットから折り畳みナイフ。

刃が朝陽を反射し、ルナの喉を狙った。


「リカ、やめろ!」ハルトが叫ぶ。


だが、既にルナは動いていた。

手首を制し、ナイフを落とさせ、背中から叩きつける。


リカは息を荒げ、怒りに震えていた。

「なんで止めるんだ! なんで!

これしか、私には戦う方法がないのに!」


ルナは一瞥し、静かに言った。

「お前はまだ人殺しじゃない」


「なめるな……」リカの声は低く唸る。


ルナは近づいた。

「強いさ、リカ。だが、行き場のない力はただの混沌だ」


ハルトは落ちたナイフを拾い上げた。

刃には細かな欠けがある。新品ではない。

既に使われてきた刃だ。


「どこでこれを覚えた?」低い声で問う。


「家でだ。……泣かずに生き残る方法をな」


その夜。

他の少女たちが眠る中、リカは焚き火から離れ、ひとりで座っていた。

ハルトは遠くから彼女を見つめる。


胸中で思った。


(……こいつに魔力なんか要らない。

今あるものだけで、十分危険だ)

戦いの中で「生きよう」とする本能──

リカが見せたのは、殺意ではなく「叫び」だった。

あなたなら、どう彼女を導く?

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