表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/111

始動する訓練、力なき者の朝

太陽がまだ昇らぬ頃、ハルトは焚き火の灰の前に胡坐をかき、静かに目を閉じていた。

朝の冷たい風が肌を水のように撫でる。だが彼の意識は澄み切っていた。


「スキル・インストール」

小さく呟くと、内なるパネルが光を放つ。


【黒鋼ハルト】

● 新規パッシブスキル:高速再生(Lv.1)

● 新規アクティブスキル:空中二段跳躍

● 新規アクティブスキル:共鳴刃

● 強化:解析システム(ランクA)


電流のような刺激が両腕を駆け抜け、魔力圧が一気に高まる。

「次はお前だ」

ハルトは視線をルナへ向ける。


彼女は表情を崩さぬまま、ただ静かに頷いた。


「覚悟はいいのか? 限定的な能力ではない」

「私は守りたい。あなたを。……そして、まだ不完全でも、あの子たちを」


ハルトは僅かに笑う。


「インストール開始――対象:ルナ」


● 新規アクティブスキル:分散プリズム(防御系)

● 新規パッシブスキル:熱源視覚

● 特殊スキル:重力場(エリア制御)

● ハルトとの同期率:+15%


光が奔流のように彼女の体を走り抜けた。

優しい魔力ではない。

荒れ狂う奔流が「ようやく存在を思い出した」とでも言うように、彼女を揺さぶる。


空はようやく明るみ始めていた。

ハルトは立ち上がり、石を棒で二度叩く。


「起きろ。全員」


毛布に包まれていた少女たちが顔を出す。

寝ぼけた顔、乱れた髪。


「……何時よ」

レイナが呻く。


「お前たちが“荷物”でいる時間は終わりだ」

ハルトは冷徹に告げる。


「わ、私たち……死ぬの?」

アイコが声を震わせる。


「訓練しなければ、そうだ」

ルナが代わりに答えた。


その声に皆の目が向く。

彼女は同じ顔のまま。だが……何かが違った。

その存在感が、確かに高まっていた。


ハルトは火打ち石を弾き、小さな火を起こす。


「朝食は軽めだ。煮た根、薄いスープ、木の実二つ。……満腹では体が動かん」


彼女たちは黙って食べる。レイナだけが小声で不満を漏らした。


やがて、ハルトは皆を正面に立たせる。

視線は刃のように冷たい。


「一つだけ理解しろ。……今の俺なら、お前たちにスキルを与えることもできる。

だが、まだやらない。お前たちはそれを無駄にするだろう。


身体は脆弱、精神は分裂、心はまだ“前の世界”に縛られている」


レイナは唇を噛み、俯いた。

マリは苦々しい顔を隠そうとする。

アイコは息を飲み込むだけ。

リカは――ただ目を見開き、黙っていた。


「今日の訓練は基本だ。

周囲を三周走る。

スクワット、腕立て、体幹。

呼吸の制御。

座禅による強制瞑想――世界の流れを感じろ」


「倒れたら……?」

レイナが掠れた声で問う。


「倒れるのは今のうちだ。戦場なら、即死だ」

ルナが無情に答える。


ハルトも頷く。

「呼吸を保てるようになったら……考えてやる。スキルを与えるかどうかをな」

そして吐き捨てる。

「今のお前たちは――ただの“喰われるだけの子供”だ」


走りが始まる。

レイナはすぐにつまずく。

アイコは吐きそうになりながら必死で走る。

マリは歯を食いしばって耐える。

リカは肩で息をしながらも――決して止まらなかった。


丘の上で、ルナが見守る。

熱源視覚が彼女の瞳に宿り、それぞれの体温、限界を冷静に見極める。


ハルトも視線を走らせた。

その顔に宿るものは――裁きではなかった。


僅かな、しかし確かな「希望」。

能力がないからこそ、走る意味がある。

真の力は、まず「呼吸」から始まる。

少しずつ、何かが始まった気がする──

感想・評価・お気に入り、ぜひお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ