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幻想の終わり──そして始まる「訓練」

大きな木の下で、一行は休んでいた。

トロルが倒れた場所からは遠く離れて。

空気は重く、沈黙で満ちていた。


ハルトは木陰から皆を見渡し、口を開く。


「聞くが……お前たち、これまでに体を使ったことはあるか?

スポーツでも、努力を必要とする何かでも」


少女たちは顔を見合わせ、居心地悪そうに黙り込んだ。


「今そんなこと関係あるの?」

レイナがぼそりと呟く。


「大ありだ」


最初に答えたのはマリだった。


「チェスクラブに入ってた。集中力の訓練とかはしたよ……それ、カウントされる?」


次にアイコが timid に手を挙げる。


「13歳までバレエをやってた。指を折って、それでやめちゃったけど」


レイナはため息をつきながら鼻で笑う。


「礼儀作法の訓練。行進。いやいや剣術も。木剣だけど。最悪だった」


リカは目を閉じた。


「私は……ボクシング。こっそりやってた。でも本気で殴り合ったことはない」

石を蹴飛ばしながら吐き捨てるように言う。

「で、役立たずだって昨日わかったよ」


ハルトは拳を握りしめた。


「……思った以上に酷いな」


「何を期待してたの? 兵士?」

マリが反発する。


「姫がモンスターを斬るなんて想定する方がおかしいでしょ!」

レイナが怒鳴る。


その時、ルナが口を開いた。

声は静かだが、内に怒りを抱え込んでいた。


「じゃあ何しに来たの? 死ぬため?」


その一言で全員が黙り込む。


「昨日トロルに殺されかけた。私が防がなきゃ全員バラバラだった。

この世界があなたたちの靴の汚れなんか気にすると思う?」


リカが顔を上げる。

「もう分かってるよ」


「いいえ、何も分かってない」

ルナが一歩踏み出す。

「生きるのに何が必要か、この世界でどれだけの代償を払うか。まだ何も」


「あなたは母親じゃない!」

レイナが叫ぶ。


「でも毎回あんたたちのケツを拭いてるのは私!」

ルナが怒声を張り上げた。


「私たちだけじゃない! 他にも仲間がいるかもしれない! この世界に!」

アイコが反論する。


ハルトが振り返った。


「……どういう意味だ」


マリは目を伏せる。


「ただの勘。でも……来た時に感じた。私たちだけじゃない気がしたの」


ルナは睨みつけるように歩み寄る。


「勘で生き延びられると思う?」


「直感だって大事!」

アイコの手が震えていた。


「直感じゃ首が飛んだ時に守れない!」

ルナが怒鳴る。


ハルトは深く息を吸い、目を閉じた。

そして大地を拳で叩く。


ズドン、と魔力が走り、地面がひび割れる。


少女たちは息を呑んだ。


「互いに喧嘩して死にたいなら勝手にやれ。

妄想を語りながら飢え死にしたいなら好きにすればいい。

だが俺は、死体を背負う気はない」


声は冷たく、刃のように鋭い。


「これからは……生きたいなら、訓練するんだ。血を流すんだ。理解するんだ」


全員が俯いた。リカだけが顔を上げたまま。


「……もし拒否したら?」


ハルトの視線が彼女を射抜く。


「勝手にすればいい。だがモンスターは名前を聞いてから食わない」


沈黙。重く、現実的。


ついにレイナでさえ、何も言えずに目を伏せた。


ルナは背を向け、感情を隠した。


ハルトは一切の情けを見せず、言い切った。


「明日から始める。

お前たちが壊れるまで。

壊れて初めて……何かが始まるんだ」

この世界では、思い出も予感も意味を持たない。

動けない者は死に、動ける者は殺される。

「訓練編」スタート──

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