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生死の先にある力──トゲの槍、初の一撃

夕暮れは静かだった。あまりにも静かすぎた。


一行は、木の根や乾いた枝が絡み合う自然の小道を進んでいた。

ルナが先頭、数歩後ろにハルト。

少女たちはその後をついていくが、口には出さぬ小さな不満と、不安げな視線が絶えなかった。


最後尾にはリカ。腰にジャケットを結び、鋭い目で周囲を警戒していた。


――バキッ。


音が響いた。

ただの小枝ではない。太い枝が折れる音。

同時に、古びた肉と湿気の匂いを含んだ風が吹き抜けた。


そして――咆哮。


大地がわずかに震える。まるで大地そのものが息を呑んだように。


木々の間から現れた。

トロル。

灰色の皮膚に乾いた泥をまとい、巨大な影を落とす。

目は原始的な飢えに光り、腕はまるで硬化した肉の棍棒のようにぶら下がっていた。


「な、なにあれ!?」

アイコが叫び、後ずさる。


「ど、どうしてこんなところにモンスターが!? 計画にない、こんなのなかった!」

マリは震え出した。


レイナは声を失い、その場に固まった。


リカは、昨夜削って用意した棒を抜き構えた。だが足は一歩も前に出なかった。


トロルが木を殴り倒す。大木が紙のように崩れ落ちた。


「下がって!」

ルナが叫び、少女たちの前に立ちはだかる。


素早い動作で、弱い光の障壁を展開した。

攻撃魔法ではない。だがその巨体の動きをほんの数秒だけ鈍らせる。


「ルナ、危険すぎる!」

ハルトが駆け寄る。


「仕方ない……私の術式の射程じゃ、これが限界」

ルナの顔は緊張に固まっていた。

「これが……今の私にできる全部」


トロルが腕を振り上げ、咆哮を放つ。


ハルトは歯を食いしばった。


(このままじゃ……終わらない。やるしかない!)


彼は地面へ手を伸ばす。

指先は震えていた。恐怖ではなく、加速する力のために。


――新規コマンド。

魔法スキル作成:『棘槍』

種別:物理攻撃+自然魔法

属性:土

速度:高

効果:多重貫通


内なるコンソールが赤く輝く。

大地の根が震え、土から黒い槍が生まれた。棘が絡み合い、生きた金属のようにうねる。


「――死ねぇぇッ!」

ハルトは叫び、全力で槍を投げ放った。


稲妻のような速度で空を裂く槍。

トロルの胸へ直撃。


巨体が咆哮し、のけぞり……そして崩れ落ちた。

湿った、重い音が響く。


静寂。


森が、ようやく息を吹き返す。


少女たちは凍りついたまま。

リカは見開いた瞳で固まり、

マリは地面に座り込み、理解できずに震え、

アイコはすすり泣き、

レイナは瞬きもせずに見つめ続けていた。


ルナはゆっくりと障壁を解いた。


「ハルト……今の槍は……」


「即興で創った。……他に手はなかった」


「危険すぎる……」


ハルトは自分の手を見つめる。

まだ棘が神経を這うような感覚が残っていた。


「……これが始まりに過ぎない」


その夜、誰も口を開かなかった。


空気に溶け込む恐怖。


だが少女たちの心の奥で――

「死ぬ」という言葉は、もはや遠い概念ではなかった。

痛みとして、現実として、そこにあった。

異世界の「死」は、ゲームオーバーじゃない。もっと重い。もっと現実だ。

初めての戦闘、初めての殺意。

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