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無能という絶望──この世界に来た代償

森の空気は重く、昨日の不満を大地が飲み込んだような静けさだった。


「悪気はないけど、あれは試練というより拷問だったわ」

レイナが髪に付いた葉を払いながら吐き捨てる。


「悪気があるかないかは関係ない。むしろ……あれは“優しすぎた”方だ」

ハルトは静かに答えた。


少女たちはバラバラな円を描くように腰を下ろしていた。即席のキャンプ。

ルナは無表情のまま、一人ひとりに温かい草の煮汁と穀物の混ざった“何か”を配る。


「食え。今日からが本番だ」


最後の一皿をアイコに渡すと、ハルトはその場を離れ、倒れた丸太の上に座りながら彼女たちを観察した。


レイナは貴族のように背筋を伸ばしていたが、箸の扱いは不器用で、顔には明らかな嫌悪が見えた。

マリは栄養素を分析しているかのような目で食事を見つめるばかり。

アイコは両腕で自分を抱きしめ、震えていた。

リカだけが静かに食べていた。ただ目を伏せ、文句も言わず、戦場にいる兵士のように。


ハルトは静かに目を閉じ、スキルを発動した。


彼の目の前に、誰にも見えないステータス画面が浮かぶ。


名前:レイナ・フォン・アークライト

アクティブスキル:なし

パッシブスキル:なし

魔力状態:無


名前:サエグサ・マリ

アクティブスキル:なし

パッシブスキル:なし

魔力状態:無


名前:ユミネ・アイコ

アクティブスキル:なし

パッシブスキル:なし

魔力状態:無


名前:カンザキ・リカ

アクティブスキル:なし

パッシブスキル:なし

魔力状態:無


まるで空っぽの飾り人形を見ているようだった。


その時、ルナが音もなく隣に現れた。


「……見たのね」


「見たよ。……“空っぽ”だ。何もない。魔力も、スキルも、気配すらない」


ルナの眉が僅かに動く。


「呪われているより、ずっと悪いわね」


「……この世界が彼女たちを認識していない。繋がりが拒絶されている」


「そんなことが……可能なの?」


「もし彼女たちが自然に“来た”のではなく……運ばれてきたとしたら?」


「実験……ということ?」


ハルトは頷いた。

彼の目は、かつての自分を重ねているようだった。


少し離れた場所で、レイナが石を蹴飛ばす。


「地面で寝て、木の皮を食べるなんて……屈辱よ!」


「魔法の従者がいない生活へようこそ」

マリが地図をめくりながら皮肉を言う。


「魔法がないなんて……どうやって訓練すれば……」

アイコは爪を噛みながら泣きそうな声。


リカは何も言わず、岩で棒を削っていた。まるで槍を作るように。


ハルトは彼女の隣にしゃがみ込んだ。


「……気づいたか?」


「何が? スキルがないこと? うん、気づいた。最初はこの世界が壊れてるのかと思った」


「世界は動いてる。だが……お前たちは“受け入れられていない”」


「つまり、終わってるってこと?」


「変わらなければ、な」


「……最高だな」

リカは棒を放り、腕を組む。


「違う地獄に来ただけじゃん」


夜が降りた。


ルナは他の者たちから少し離れたところに火を灯し、焚き火の前に腰を下ろした。

ハルトも静かにその隣に座る。


「……彼女たちをどうするつもり?」


「まだ決めていない。だが……俺が背中を押さなければ、この世界が奴らを壊す」


「あなたも……そうだったのよね」


ハルトは返事をしなかった。


あの夜を思い出していた。

火もなく、誰もいなかった夜。


……ルナも、まだ隣にはいなかった。


キャンプでは、少女たちは寝ていた。もしくは、寝たふりをしていた。


――ただ一人を除いて。


リカは丘の上を見つめていた。


そして、誰にも聞こえないような声で呟いた。


「……魔法もない。力もない。

でも――“怒り”なら、まだある」

スキルも、魔力も、加護もなく――

彼女たちは“ゼロ以下”から異世界に放り込まれた。

こんな異世界転生、聞いたことがあるか?


次回、試されるのは――

たった一つ残された「意志」の力。


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