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227  作者: Nora_
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08

「今日も雨かー」


 テンションが下がったりはしないけど上がりづらいのも確かだった。

 また、雨が降っても歩きたいと言ったのに久崎先輩が付き合ってくれないことも気になっている。

 最近は先輩の方と一緒にいられる時間が増えていた、もしかしたらあの男の子は飽きてしまったのかもしれない。


「布施さんがよくあなたのことを聞いてくるの、だからついつい遅くまでメッセージのやり取りをしてしまうのよ」

「なんで本人に聞かないんでしょうね」

「恥ずかしいからよ、私だってあなたのことを布施さんから聞いているわ」


 ここに本人がいるんだから聞いておくれよっ、隠さなければいけないことなんてなにもないのだから教えるよっ。

 彼女達はなんとも非効率的なことをする、敢えて変なやり方をするのも子どもらしいかもしれないけど実にもったいない。

 というか、自分の知らないところで自分の話が出ているということが怖かった。


「これを言ってしまうのは少し可哀想だけど、布施さんはいつもあなたといたいと言っているのよ?」

「確かに塩対応をされることはなくなりましたが……」


 その日の内に返してくれるようになったし、寧ろ向こうの方から積極的にやってきてくれている。

 でも、なんか意外だ、だって他にもお友達が多くいるわけだから多少なにかがあってもお友達達といるだけでなんとかなりそうなものだけど。

 一緒にいられなくて寂しいとぶつけても「なおは大袈裟だよ」と返してくれたぐらいだよ? 会えないと会いたくなるアレなのだろうか?


「会いにいこうと思えば会える、けれど、お金を使わなければならないぐらいの距離だと私だって同じ感想になるわよ」

「あーお友達とはいたいですけど、さとこがそうなることが不思議なんですよね」

「一緒にいても全部を相手に出していくわけではないわ、あなたが相手でもまだまだ隠していたことはあるということね」


 すぐに会えないからこそ吐いてくれたりは……しないか。

 まあ、信用してくれていないからとかではないだろうから残念がる必要もない。

 そもそも全部を吐き出すなんて無理だ、変なことをしているときに見られてしまったら吐かなければいけないかもしれないけどね。


「多分、私のこともあると思いますけどひとみ先輩のことも知りたいんだと思います、相手をしてあげてください」

「ええ」

「さて、どうせやみませんからそろそろ帰りましょうか」


 テンションが上がりづらい~などと言っておいてあれだけど、何故か水たまりを見たりすると突っ込みたくなる。

 傘をさすのをやめてちょっと歩いてみたりとか、ベンチに座ってぼうっとしていたくなる。

 身長も変わらなければ中身も変わっていない、流石に社会人になってからやるのは不味いからやりたいならいま自由にやっておくべきだろうか。


「あの、ちょっと傘を持っていてもらえませんか?」

「また体調が悪くなってしまうからやめておきなさい」

「で、ですよねー」


 はぁ、大人しく帰ろう。

 今日も付いてきてくれたから彼女に甘えまくっていた。

 足がどうこうではなく、単純にこちらを優先してくれていることが嬉しいのだ。


「布施さんにも素直にならないとね」

「くっつくとすぐに嫌そうな声で『離れて』と言われるんです」


 多分、自分からやるのはいいけど相手からやられるのは嫌なのだ。

 さとこも猫ちゃんだ、寂しさが限界突破したら少し甘えてくれるものの、そうでもないなら少し遠いところから見ているだけ、線を引いて他者が踏み込んでこないのかを見張っている。


「ふふ、まもるみたいな子ね」

「久崎先輩は……あ、確かに似ていますね、素直になれませんから」

「あなたに対して遠慮をしているものね、最近はあなたが普通に対応してくれることが気になっているらしいわよ?」

「え、言ってしまっていいんですか?」

「こういう話になったときに教えていいと言っていたわ」


 なら彼女からしたらこれは作戦通りということか。

 しかし……普通に対応してくれることが気になっているとはどういうことなのだろうか? お友達が来てくれてわざと冷たくしたりなんかはしないからよくわからない。

 〇〇と比べて露骨に変えられているというわけでもないのだ、なにを気にしているのか。


「だからあなたの方からいってあげてほしいの、そうすれば逃げたりはしないわよ」

「わかりました」

「ということでいまからいきましょう、実は今日、家にいなければならないのよ」

「え」


 お茶目……と言えばいいのか大丈夫なのかと心配すればいいのか。

 ま、まあ、しっかりしすぎているよりは一緒にいやすいからこれでいいのかもしれなかった――なんてね。

 こんなの久崎先輩のことを考えて発言しているだけだ、そういう風に言っておけば私からひとみ先輩もいてくださいとは言われなくなるからだ。

 だから勝手な妄想で考えるのは危険だった。




「久崎先――あ、なんで逃げるんですか」

「……どうせひとみに聞いて来たんだろ?」

「それもありますし、私が久崎先輩といたいのが大きいんですけど」


 なんか叱られる前の子どもみたいで可愛い。

 そういうのもあって背伸びをして頭を撫でておいた、理想通り「なんだよ?」と嫌そうな顔をされて一安心っ。


「俺といたいのか?」

「それはそうですよ」

「そうなのか、なんでだ?」

「え、なんでだって……お友達だから?」

「そうか」


 腕を組んで二つ頷く彼。


「なら、友達だから為末は俺の要求を受け入れてくれているんだよな?」

「え、あ、はい」

「……別になんか変なのはないんだよな?」

「特別な好意とかはまだ、はい」

「ならいいや」


 あれ、これってひょっとしてやらかしてしまった感じだろうか?

 これから頑張ろうとしたときに邪魔になる気がする、だけど後悔したところでもう遅いのだ。

 フラグを建ててやらかすのが私なのに――あ、いや、今回もそれもやらかしているのだから間違ってはいないか。


「い、嫌ですっ」

「お、おい急になんだよっ」

「……いまはないというだけでこれからはわからないじゃないですかっ」


 壊してしまったのならもう一回きっかけを掴まなければならない。

 そのためには恥ずかしがっている場合ではなかった、もう抱きしめる勢いでくっついて彼に変えてもらわなければならない。


「なに一人で慌てているんだよ……」

「だ、だって……」

「……いまはまだあってほしくなかっただけだ、俺が為末のためにもっとなにかをしてやれたらいいけどな」

「は?」


 がしゃんと大きな音が鳴った――のはともかくとして、こちらが固まるには十分な内容だった。

 最初からそれを言ってよっ、勇気を出して距離を詰めたのにあまりに酷い結果だよっ。


「な、なんでそこでそんなに冷たい顔をするんだよ」

「じゃあいまの私は恥ずかし損じゃないですかっ」

「いや、俺は正直なところを知ることができてよかったけどな、別に作戦ってわけじゃなかったけど」


 消えよう、少なくとも三キロぐらいは距離を作らないと無理だ。

 だから挨拶をしてすぐに走り出した、ぽんこつというわけではないから走るのが辛いというわけではない。

 走って走って走って、大体、学校までの距離を二倍ぐらいのところで足を止めた。


「ふぅ」

「意外と体力があるんだな」

「ぎゃ――」

「待て待てっ、ここで叫ぶのは不味いだろっ」


 迷惑をかけるのも違うけど触れられていることで内でぎゃー!? となったよ……。


「久崎先輩と歩いたのもいい方向に影響しているんです」


 平気なふりをしているけどさっきから心臓がうるさすぎる。

 アラームにしたら朝が苦手な私でも一発で起きられそうなこの感じ、赤ちゃんが聞いたら泣きやんでくれなくなりそうだ。


「いや、元々体力があったんだろ」

「あるんですかね、毎回さとこに負けてジュースを奢ることになっていましたけど」

「あれだろ、体力はあるけど速くないんじゃないか?」


 ま、遅くても体力があるならそっちの方がいい。

 体力がないとなにをしてもすぐに疲れてしまって楽しめなくなる、余裕がない状態のときは人間関係の方でもやらかすかもしれないからね。


「今日は雨も降っていないからゆっくり帰るか」

「そうです――あっ」


 悲報、その体力も大してなかったらしい。

 なにもしなければ地面とキスをするということで彼が支えてくれて助かった、こちらをちゃんと立たせてからしゃがんで「家まで運んでやるよ」と言ってくれたけど断る。


「手なんか繋いでどうするんだよ」

「この方が転ぶ可能性も低いですよね?」

「いいか、早く帰ろう」


 んー彼が兄だったら、なんて考えが出てきた。

 おはようから始めて彼ならこちらのことを優先してくれそうな感じがする、問題ないだろという風に片付けてもちゃんと無事に終えるまで見ていてくれそうな柔らかさがあった。

 その場合は恋をすることができなくても喧嘩にでもならない限りは幸せな毎日になりそうだ。


「うへへ」

「その顔はやめろ」

「今日からお兄ちゃんって呼んでもいいですか?」

「俺が呼ばしているように見えるから絶対にやめろ」


 ならこれ以上は求めずに妄想をしながら帰ろう。

 残念ながらすぐに終わりがきてしまったけど幸せだった、帰り間際に「その気持ち――その笑みは歩きながら浮かべないようにな」とちくりと言葉で刺されても変わらなかった。


「最近、遅いのが当たり前よね」

「ちょっと楽しくてね」

「せめて十九時には帰ってきてもらいたいわ」

「あーうん、一応……あ、いや、ちゃんと意識しておくよ」


 ご飯を作っている身としては温かい状態で食べてもらいたいからね、気持ちは強くわかるから頑張って帰ろう――って、別に毎日毎日遅くまで外にいるわけではないけどね。

 仮にお友達といたとしても誰かのお家かこっちかで過ごしているから母の言う十九時までには必ず帰ることができている、となると、


「もしかして寂しかったりとか――ああ! 答えてよっ」


 やっぱりそうかっ。


「前までのあなたの方が可愛かったわ、お友達といられるのはいいことだけどね」


 あちゃあ、お友達と仲良くできても母と不仲になってしまうのは嫌だ。

 だから意識をしておく、ではなく、これからも守ろうと決めて土下座をしたのだった。




「ちーっす」

「え、さとこそれ……」

「これ? 安物のウィッグだけど」


 よ、よかったぁ、いきなりお友達がぐれてしまったのかと思った。


「で、なおさん、告白的なことをしたって聞きましたけど?」

「あ、聞いてよ、久崎先輩は本当に意地悪なんだよ?」


 まあ、こちらにくっついてもらいたくてしたということならまだ可愛くていいけど実際はそうではないのだから困る。


「はあ~なんで未だに名前で呼んでいないの?」

「そういう話にならないからかな」

「なおは恋をすることに向いていないのかもね」


 うん、それはわかっているから安心してほしい。

 だけどそういうところは積極的に動いてくれる久崎先輩がなんとかしてくれると思う、あ、こちらのことが好きになれば、の話だけど。


「ま、私の方だって新しい子が見つかっていないし、長続きしないし、寧ろこっちの方が向いていないんだけどね」

「そんなことはないよ」


 続けるとどっちにとっても暗くなるだけだから無理やり変えてお菓子でも食べることにした。

 大好きなお菓子を買ってきたから彼女的にもいい方に働いた、それからは学校で起きたいい話をしてくれただけだった。


「そういえばはるが最近は変なんだ、真面目君になっちゃったの」

「はる君は元々真面目でしょ?」

「それが家ではずっと勉強をしているんだよ、こっちに強制してこないからまだいいんだけどだらだらしているとその差が気になって駄目でね、だから今日は来たんだよ」

「どんな理由からであれさとこが来てくれるのは嬉しー」

「うんまあ、嫌よりはいいね」


 はる君がいるときに抱き着くわけにもいかないから一人しかいないときに抱き着いておいた。

 今日は「くっつかないで」と言われることもなく静かな時間が続く、少し離して顔を見てみたら寝ているわけでもなく上を見ているだけの彼女。


「やっぱりあの人と付き合ったらこれもなくなるの?」

「え、女の子が相手ならノーカウントじゃないの?」


 わからないことは聞いてみようということで聞いてみた、そうしたら「仮に付き合っていても同性にしているだけなら気にならないぞ」と教えてくれた。

 じゃーんと勢いでそれを見せると少し安心したような顔で(願望)「それならよかったよ」と返してくれたけど……。


「あっちにいたときは絶対にそんなことを言ってくれなかったのにどうしちゃったの?」


 これだ、いいことを言われても心配になる面倒くさいところがあって悪いけど気になってしまうのだ。


「学校にいけば当たり前のようになおの顔を見ることができる環境が本当は幸せだったんだよ」

「ちょ、幸せは言い過ぎ……」

「適当じゃないから」


 幸せだと感じるのはこちらで、彼女達の方が「また言っているよ」的な顔で見るのがいつものお決まりのパターンなのにどうしてしまったのか……。


「でも、無理だからこうしてくっついておくんだ、その点ではまだ付き合っていなくてよかった」


 追いつけなくてぷるぷると震えていたものの、結局は親友といられているということが大きくなってすぐに直った。

 ただ、やはり申し訳ないから今度はこちらからいこうと決めたのだった。

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