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227  作者: Nora_
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07

「はぁ……はぁ……なんとか濡れずに済んだな」

「そ、そうですね……」


 歩いている最中にぽつぽつと雨が降り出して勢いが凄くなる前に走ることでなんとか避けられた……のはいいけど、残念ながらまだお家に帰れたわけではないから結局あまり意味もなかった。

 お互いに濡れてしまっていた方がよかったのかもしれない、どちらのお家からも離れている分、助かったようで助かっていないのだ。


「コンビニがあるな、ちょっと傘を買ってくる」

「それならこれを」

「いい、この前駄菓子を買ってもらったからな、いってくる」


 これなら彼だけ買って私は走り帰ってしまった方がいい気がした。

 でも、もう動いてしまっているから待っていたら「買ってきたぞ」と見せてくれた傘は一本。

 いや、既に持っているのだから当たり前と言えば当たり前だけど……。


「あ、相合傘をして帰るってことですか?」

「我慢してくれ」

「あ、いえ、久崎先輩が嫌なんじゃないですかって――あー」

「いいから帰るぞ」


 そうか、やはりあの腕を掴まれたのが気に入らなかったということか――ということもなく、早く帰りたいだけだよね。


「もうすぐ梅雨だからな、これからこういうことも増えるよな」

「そうですね、でも、傘をさしながらでも歩きたいです」

「ま、継続しないと意味がないからな」


 いつもはあまり意識していないものの、こういうときは身長が高いことがよくわかる。

 それでも離れたりしないから合わせてくれているということだよね、さとこの件から本当になにが変わったのか。


「着いたな」

「あの、帰りは送らなくていいのでこのまま久崎先輩のお家にいっていいですか? そろそろご飯を作ろうと思いまして」

「そろそろってあれから全く時間が経過していないぞ? あ、為末がいいなら俺としてはありがたいけどさ」

「濡れなくて済んだお礼です」


 場所が違うだけでやることは変わらない、それと一応練習してきたから前よりは美味しい物を作れる。

 懐かしいな、さとこのお家で頼まれて作っている気分になってくる。

 だけど後ろを見ればソファに座ってぼうっとしている彼がいるわけで、あの頃とは違うのだ。


「できました」

「おう、食べさせてもらうわ」

「じゃあ私はこれで」


 お腹が空いたからこれで終わりだ、送ってもらうわけにもいかないからご飯を食べている最中に動くのが一番だった。


「もう泊まっていけよ」

「うぇ」


 ま、まあ、ご飯を食べたら普通はお風呂に入って寝るだけだから動きたくないのはわかる、でも、今回は頼んでいないのだから気にする必要はないのだ。

 なにを勘違いしたのか「あっちにいれば両親が来たりはしないぞ」と重ねてきた彼、別にご両親が来るとか来ないとかで気にしているわけではない。


「で、でも……」

「無理なら無理でいい、その場合は送るけどな」

「き、着替えるための服がないので……」

「じゃ、待っていてくれ」


 ぐ、だけど送られるために待っているのは気まずくて嫌だ。


「……そ、それなら汚れていない体操服があるのでそれに着替えます」


 お、お家で学生なら体操服で過ごしていたってなにもおかしくはないはずだ、ただ、男の子のお家でなにをやっているのかとは言われてしまいそうではあるけど……。


「そうか、なら今度は俺が作ってやるよ、腹が減っただろ?」

「それなら卵焼きをお願いします」

「お、おう、一度決めたら悩まないんだな」

「はい、ご飯を食べることは好きなので」


 圧をかけるのも違うからソファに座らせてもらうことにした。

 完全に緩んでしまう前に母に連絡、一応チェックしたけど他の誰からも連絡がきていなかったから電源を落とす。

 もうね、できたぞと言われる前に結局いい匂いに負けていってしまったよね、そのせいで物凄く微妙そうな顔をしていたよ。


「これとこれを使え、タオルはここな」

「は、はい」

「じゃ、リビングで待っているからゆっくり入ってこい」


 しっかり洗ってから五分で出てきた。

 もちろん汚さないためにもつかっていない、つまり一生懸命に洗ってきた形になる。

 そして謎の体操服女なおが誕生することになった、うん、普通に恥ずかしい。


「もう寝るなら布団を敷いて部屋にいくぞ」

「も、もう少しぐらいは付き合ってもらいたいです」

「おう」


 なんかこう「変だな」とかでもいいからこの状態に触れてほしかった。

 なにもツッコミなんかもないから気になってしまう、やはり帰っておくべきだったかと後悔をしてももう遅い。


「テストが終わったらどこかにいくか、ひとみがうるさいからそのときはひとみも一緒にな」

「はい」

「あとは……あ、なるべく雨が降らないことを願おう」

「雨が降らないと困ってしまいますよ?」

「どうせなら傘をささなくて済む方がいい、声も届きやすいからな」


 なるほど、私的にも顔を身ながら話せた方がいいから雨が降らない方がいいか。

 ただ、梅雨が終われば夏になって汗もかくだろうから今日みたいな距離で歩くのは避けたいかな。

 というか、そういうのがなにもない現時点であっても少し近いような気がするから、うん、一人分ぐらいの距離はね。


「為末?」

「なひゃ、んんっ、なんですか?」

「冷えたのか? ジャージの上着でも持ってきてやるよ」

「ま――駄目だ……」


 こういうことに関しては聞いてくれない。

 しかも借りることになってしまったし、落ち着かない時間になってしまったのだった。




「はぁ……」


 テストが終わったのはいいけど今日は一段と朝が辛かった。

 熱があるわけでもないのにここまで弱っているのは……なんでなのかわからない。

 とりあえず大人しくしておくしかないから教室の椅子に張り付いていた、久崎先輩が引っ張っても離れないぐらいにはくっついていると思う。


「た、為末さん、なんかすごい顔で先輩に睨まれているよ?」

「すごい顔……?」


 いやこれは彼の標準の顔――そう言い切ろうと思ったら彼ではなく彼女だったことになる。

 でも、彼も彼女も難しい顔が標準ではあるからそれでも驚いたりはしないで済んだ。

 しかし……今日の私には付き合っていられるような余裕がないからまた今度にと頼もうとした、が、言うことを聞いてもらえずに結局動くことになっていた。

 出ていく際に隣の子が「や、やばいよ」と言っていたのが印象的だったね、怖い人ではないけど……。


「あれなの?」

「違います、風邪というわけでもないんです」

「ならなんで今日はそんなに弱々しい感じなの?」


 首を振ったらとりあえず休んでくれということで足を貸してもらえることになった。

 なんとなくではなくラッキーと考えた自分がいた、あっちもこっちも求めたくなるのが私だ。


「まもるの家に泊まったこと、さっき聞いたわ」

「送るのが面倒くさくなったんだと思います」

「嘘ね」


 こ、怖い……から目を閉じて休むことを優先っ。

 すると優しく頭を撫でてくれて学校なのに今回も自宅のように寝てしまった形になる。

 ある意味特殊な能力だ、ただ、学校でも関係なく寝られてしまうという点は一長一短かもしれない。

 もし先輩がいてくれなかったら? 放課後に一人だったときのことを考えても震えてくる……って、


「さ、寒い……」


 体温計で熱を計ってくるべきだったか、これまでも弱るときはあったから大丈夫だと考えて出てきたけどこれは……。


「ひとみ先輩……」

「保健室にいきましょう」

「あ、最後まで……大丈夫だと思います」


 危ない危ない、なんとか甘えなくて済んだ。

 自分がもう駄目だと考えたら本当にそのように傾いていく、だから今度こそ席に張り付くのだ。

 いいことは頭が痛くないことだ、あとは体育がないことだった。


「さ、帰りましょう」

「ひとみ先輩大好きです」


 ちゃんと最後までやらせてくれたから感謝しているのだ。

 毎時間ちゃんと来てくれたし、先輩が側にいてくれていると安心できた、教室にいた分、先輩が来る度に隣の子があわあわしていたことは気になるけども。


「体調が悪いのね、お家まで運んであげるわ」


 え、あら、そんなに力があるのかと驚いていた。

 先輩が弱ってしまったときにお家まで運べるように鍛えようと決めて素直に甘えさせてもらう。


「はい、ちゃんと掛けてね」

「ありがとうございます」


 ……言いづらい、学校にいるときよりも体調が治っていることを言いづらい。

 学校が苦手なだけ……いや、お友達がいなくても普通にやっていけているからいつもとは違ったのは確かか。


「……ひとみ先輩、実は学校にいるときよりもいい状態になってしまったんですけど……」

「いいことじゃない、あなたには元気でいてもらいたいもの」

「すみません、だけど本当にちゃんと聞いてくれてありがとうございました、最後までいられてよかったです」


 保健室にいってすぐに治ってしまった! などということになったら恥ずかしくて戻れなくなる。

 そうしたら学校にいるのに授業を受けないあほということになってしまうから先輩は救ってくれたのだ。


「勝手だけどね、あなたの方から本当は言ってほしかったの」

「あ、ならあの子からしたら怖い顔に見えたのは……」

「ええ、あなたが悪いわけではないけど少し悲しかったの」


 う、うーん……だけどいちいち久崎先輩のお家に泊まりました! と言われても困るだろうし、久崎先輩だって本当は泊めたりしないのが一番だったと思う。


「でも、これであなたのお家にいくことはできたからよかったわ」

「あ、飲み物とお菓子を持ってきま――」

「はい」

「あ、ありがとうお母さん」


 口に出しておいてよかった、そうでもなければ母のことだから遠慮をして廊下にいるか、持ち帰っていた。


「食べてください」

「ええ、食べさせてもらうわ」


 お菓子をちびちびと食べている先輩を見てこれで終わらせるのも微妙だから今度またわかりやすく元気なときに招こうと決めた。

「なにかついているの?」とまた聞かれてしまったので慌てて首を振り、元気なときにまた遊びたいのだと言っておいた。




「元気いっぱいだあ!」

「うるさいぞ為末」

「そこは『よかったな』でいいじゃないですか」


 元気になるなり速攻で来てくれたくせに素直ではない。

 もう顔に書いてあるね、私が元気になってくれてよかった、って!


「俺は教えてもらえなかったからなあ、ひとみのやつも『なおは大丈夫よ』としか言ってくれなかったんだぜ?」

「んー意地悪をしたかったわけではないと思います、だって私のことで意地悪をしても意味がありませんから」

「どうだかねー」


 どうだかってそのままだ。


「今日は晴れているのでお出かけをしましょう!」

「え、やだよ、どうせなら土日とかがいい」

「ふふ、また泊まってもらいたいからですか?」

「それなら平日でもできるだろ――あ、ただ、怖いからひとみも今度は参加させるけどな」


 うわ、このちょっと怖がっているような顔が可愛い。

 だけど頭を撫でたりなんかしたらぶっ飛ばされるからなんとか我慢をして前に進めることにした。

 今度もっと仲良くなったら絶対にするけどね、それで少し不満そうな顔で「なんだよ?」と吐いてくれたら大満足だっ。


「んーそれならひとみ先輩のお家に泊まらせてもらえたりとか……しませんかね?」

「いけるだろ」

「それなら楽しみにしておきます、あ、今度は早く寝たりはしないでくださいね」

「為末に言われたくない」


 二十二時付近になって「いやそれは不味いだろ」とか「流石にまだな」などと言って逃げたのは彼だ。

 自分的にもあまり夜更かしはできないから大人しく解散にしようとしていたのに彼のそれで完全に火がついた、が、結局二階まで追うことはできずに不貞腐れて寝たのだ。


「つか本当に大丈夫なのか?」

「はい、元気いっぱいですよっ」

「それならよかった」


 がっ、なにこの油断したところで刺すやつ! 効果的すぎる……。

 へ、変な勘違いをされたくないのならやめておくべきだ、先輩が動くのとは違うのだから。


「ぐっ、む、胸が痛いです……」

「ふーん」

「あれ!?」

「流石にそれは演技だと丸わかりだぞ」


 うわーん! と内側で泣くだけでなんとか表に出さずに済んだ……。

 今度は別のことで寝込むことになりそうだったから違う話をした、彼もそっちなら意地悪になったりはしなかった。

 はぁ、やはり私一人では上手く対応ができない、あと、多分だけど知りたがっている先輩的に不満だろうからここにいてもらいたい。


「ということでひとみ先輩に来てもらいました~」

「「は?」」

「私も久崎先輩もひとみ先輩にいてもらいたいんですっ」


 な、なんでこの二人はこちらを睨んできているのかな……?

 それでもね、私はわかっているのだ、黙っておけば勝手に二人で仲良くお喋りを始めるって!

 だからどきどきしていたところに違う意味でどきどきした私だけど、すぐにいつも通りに戻ることができていた。

 ……こちらのことを怖い顔で見てきている二人からは必死に意識を逸らせばこんなものだ。


「さてと、ここで見つめあっていても時間がもったいないからなおの家にでもいきましょうか」

「そうだな、立っていると疲れるからな」

「い、いきましょー」


 ということで今日も一日平和に終わりました(まる)

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