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227  作者: Nora_
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03

「適当に座れよ、特になにも用意していないから麦茶とかしかないけどな」


 いきなりお部屋に案内するとは、甲斐先輩がいるからいつもの癖というやつが出てしまったのだろうか。

 特に遠慮をしているわけでもないけど中央近くに座るのも違うから入口近くに座ることにした、ここだと少し涼しくていいというのも大きい。

 いやほら、やっぱり他の人のお家ということで緊張はするのだ、すると私の場合は汗が出てきたりもするから物理的に冷やしておこうというわけ。


「なんでそんなに端に座るんだよ、こっちに来い」

「遠慮をしているわけではないんですけどね」


 構ってほしくてしているわけではないから移動をする。

 それからぼへーっと色々なところに意識を向けていると「おい」と、戻してみたら先輩に負けないぐらいの顔でこちらを見てきている久崎先輩が。

 え、待って、なにかしたかと内で慌てていると「これはどっちが言い出したことなんだ?」と聞いてきたから私が頼んで案内をしてもらったことを素直に吐いておいた。

 ここで嘘をついたところでなにも変わらない、寧ろすぐにばれて怒られるだけだからこれが一番だ。


「はは、やっぱりちょろいのか?」

「あれですよ、どうせなら一緒にいたいです」

「お前はちょろいなー」


 ではなく、先輩の方を優先してもらいたかった。

 でも、ある意味それは邪魔をしているようなものだから本人が動き出すのを待つしかない。


「ひとみ、俺も手伝うから飯を作ってくれないか?」

「いいわよ?」

「よし、じゃあお前はここで待っていろ」


 おーしおし、久崎先輩もやるなあ。

 ということで遠慮をしないでぼへーっとしていた、なんなら戻ってくる間際まで寝転んでいたぐらい。

 私のすごい能力で扉が開けられる瞬間に体を起こせたし、全く怒られなかったからいい気分で二人が作ってくれたご飯を食べられた。


「美味しいです」

「そりゃ慣れているひとみが作ればそうだろ」


 私も作れないことはないけど人に食べてもらえるようなレベルではないから少し羨ましかった。

 幼馴染なら多少酷くても食べてもらって練習ができる、やはり誰かに食べてもらわなければいつまで経ってもそういうレベルにはなっていかない。

 前に住んでいたところでは給食だったし、お休みの日に親友に作ったりもしなかったから延々にその機会はこなさそうだけど。


「ちなみに久崎先輩要素はどこに……?」

「飯を温めた、ここまで運んだ」

「お疲れ様です」


 よしよし、久崎先輩までわかりやすく作れてしまったら困るから助かった。


「次はお前に作ってもらうからな」

「え゛」

「昼の弁当、作っているのはお前なんだろ? だったら余裕だろ」


 くそう、余計なことを考えなければよかった。

 先輩にだって食べてもらいたくないのにそれ以上にはっきり言ってきそうな久崎先輩ならもっと嫌だ。

 なんとかして逃げられないだろうかと考えて、ここに来なければそんなことにはならないとすぐに自己解決、私が緊張することは当分こないのだ、がはは。


「じゃ、夜は頼んだぞ、俺の親は遅くまで帰ってこないから自分で作るのは面倒くさいしな」

「えー」


 次の日とかではなくてその日にとは……。


「わかりやすく嫌そうな顔をするな、流石に俺だって二回連続でひとみには頼まねえよ」

「甲斐先輩……」

「ごめんなさい、夜は無理なの、出られないようになっているから流石にね」

「そうですか……それなら仕方がないですね」


 いや、仕方がないですね、ではない。

 だって夜に作ってほしいということは、先輩がいられないということは夜に二人きりになってしまうということだ。

 まだなんにも仲良くもないのにそーれは不味いだろう、緩々な子だって流石にこの段階で受け入れたりはしない。


「あー私も夜になったら帰らなければならないんですよねー」

「嘘をつくな」


 ちょいちょい、実はちょろいのは久崎先輩の方だったのかあ!?

 こういうときに限ってさっさと先輩とお喋りを始めてしまう人だから一人で内側をごちゃごちゃにしていた、悩んでいたせいでその時間がすぐにきてしまった。


「な、なんでそんなに見てくるんですか?」

「手とか切りそうで怖いからだな」

「だ、大丈夫ですからソファにでも座っていてください」


 舐めるな! と言いたいところだけどそんな余裕がなかったからぎこちない動きで作っていくしかなかった。

 これを終えたらすぐに帰る、感想なんかどうでもいい、夜になったら帰るのが普通なのだ。

 とはいえ、適当にもしたくないからちゃんと気持ちを込めて作ったよ。


「完成したのでそれではこれでっ」

「まあ待て、送るから食べ終わるまでゆっくりしていろ」

「駄目なんですよ、これ以上に遅くなるとお母さんに怒られます」


 これは本当のことだ、二十時までに帰らないと大爆発する。

 お弁当を作らせてくれなくなったりするから気を付けなければならない、高校生になろうとまだまだ支えてもらわないと生きられない身だ。

 

「しゃあねえなあ、じゃあ先に送ってやるよ」

「え、温かい状態で食べてくださいよ」


 せっかく作ったのに食べるのは後で~なんて許可できるわけがないでしょうが。

 中途半端なことをするぐらいなら頼んでこないでもらいたかった、それにいちいち送ってもらうような歳ではない。

 暗いところが苦手というわけではないし、仮に久崎先輩がいてくれても母は変わらない、だから寧ろ付いて来られてしまうと困ってしまうというわけ。


「なら待つのか?」

「食べられないよりはいいです、さあほら早く」

「お、おう、よくわからねえやつだなあ」


 よくわからないのは久崎先輩――彼の方だ。

 それこそ先輩のご飯を食べた後ならその差にがっかりするだろうに変なことを求める。

 ただ面倒くさいことをしたくないからだったとしてもだ、もしなにかがあれば先輩的にも面白くないのに。


「お前さ」

「はい?」

「いや、ひとみより下手だなーって」

「そんなの最初からわかりきっていることじゃないですか、馬鹿なことを言っていないで早く食べてください」


 わかりやすいところに掃除道具が置いてあったから廊下のお掃除でもしてくることにした――というのは冗談で、残っている意味が本当になかったからこっそりと出てきた。

 鍵はまあ、私が戻ってこなかったら気が付いて閉めるだろう。


「まったく……」


 私の親友もそうだけど、作らせておきながらああいうことを言ってくるものだから微妙だ。

 わかっているくせに頼んでくるところが質が悪い、そしてそうなることをわかっているのに毎回作る私もあほだ。

 でもなあ、そういうときに嫌だと貫き通すことができる人間ならこんな微妙な気分にはなっていないよなあ。


「ただいまー」

「おかえりなさい、遅かったわね」

「うん、ちょっとわがままなお友達がいてね」

「それってこの前の男の子――って、これだと可哀想よね」

「ううん、それで合っているから気にしなくていいよ」


 知らない方がいいこともあるということだ。

 母が作ってくれていたご飯を食べたらすぐにお風呂に入って部屋に戻った。

 まだ二十二時にもなっていないけどどうでもよくてすぐに寝た、食べたり寝たりして翌日に持ち込まないようにするためだ。


「……お母さんおはよう……」

「おはよう」


 まあ、この通り朝は苦手だから結局持ち込まないようにしたところで、という風になってしまうわけだけど。

 それでもダブルで襲われるよりはましなのかもしれなかった。




「よう」

「謝りませんからね」


 怒っているかと思っていたけどそうではなかった。


「は? ああ、早く帰らないと怒られるなら仕方がないだろ、ただ俺としては普通に帰るって言ってから帰ってもらいたかったけどな」

「それはすみません」

「謝るのかよ……」

「本当ならなにも言わずに帰るなんてよくないことですからね、少しの間だけとはいえ、危ない状態にしたわけですから当たり前ですよ」


 よし、この件はこれで終わりだ。

 なんとなく彼とジュースを飲みたい気分だったからお詫びということで奢らせてもらった、こういうときにごちゃごちゃ言ってこなくてありがたい。


「あ、少し待ってください、もしもし?」

「今日の放課後にいくから」

「え、あ、やっと反応したと思ったら急にそんなこと、そもそも平日だから無理でしょ」

「明日は休む、じゃ」


 な、なんだこの子は、更に言えば休んでまで会いにいく価値はないぞ私には。


「連絡がなかった友達か」

「はい、なんか急に来るとか言い出しまして」

「俺もいいか?」

「まあ、いいんじゃないですか?」


 嫌な予感しかしないから寧ろありがたいやつだった。

 ということで放課後までのんびりと過ごして放課後になったら駅へ。


「あ、おーい」

「おーいじゃないよ……」


 自由に行動をする子だけど待っていてよとちゃんと言えば聞いてくれるのはいいところだった。

「ん? この大きい男の人は?」と聞いてきたからお友達のお友達である久崎まもる先輩だと教えておく。


「ふーん、私は布施ふせさとこです」


 ふーんて……。

 彼的にも面白くないだろうからと見てみると「よろしくな」とそこは流石の大人に近い反応をしていた。


「それでなんで今日は来たんだ?」

「前々から気になっていたんです、学校で嫌なことがあったのでこっちでサボろうかと」

「連絡を返さなかったのは?」

「それは私があまりスマホを弄るタイプではないからです」


 うん、これは嘘ではない、直接喋ろうとするタイプだからね。

 でも、そんな子でもちゃんと送れば返してくれていたから気になったのだ。


「そんな顔で見ないで、嫌なことってのもなおならわかるでしょ」

「積極的に動けるのはさとこのいいところなんだけどね」

「何故か長続きしないんだよねー別に束縛が激しいとかそんなこともないのに」

「んーにこにこしないから?」

「なにかがあってもなにもなくてもにこにこ笑みを浮かべられる人間じゃないって、キャラじゃないもん」


 場合によってはというか、大体はぶすっとつまらないような顔をしているからそこがもったいなかった。


「なおの家にいこ」

「あ、うん、久崎先輩はどうします?」

「参加していいならそのまま参加させてもらう」

「別に気にしなくていいですよ、年上の異性がいて気まずいとかないので」


 遠距離恋愛は現実的ではないよなあ。

 だけどこうして興味を持っているということは面白いことになるかもしれない、好きな人がいるらしい先輩と~などと考えるよりはまだ可能性がある気がした。

「へー」とか「ほー」とかお休みの日の私かと言いたくなるようなことを吐きながら歩いてきた彼女、ちなみにお家に着いてからも私化が止まらなかった。


「お友達のお友達~とか言っていたけど実際は違うんでしょ?」

「いや、本当だよ? 久崎先輩には幼馴染の奇麗な女の人がいるんだよ」

「だから諦めます~って? 住む場所が変わってもなおは変わらないね」

「い、いやいや、すぐに誰かを好きになるさとことは違うよ」


 それこそ余計な遠慮をしているのは彼の方だ、どうして今日に限って黙るのか。

 いやまあ、参加しづらいだろうけど参加することを選んだのは自分なのだからいつも通りでやってもらいたい。

 だからこうして自由に言われることになる、この勢いをいま止められるのは母か彼だけだった。


「恋はいいよ? ま、恋をした分だけむかつくことも増えるけどね、例えば大事な場面で積極的になれない自分に、とかさ」

「さとこにしては珍しい」

「や、本当に難しいから。えっと、先輩はどうですか?」

「昔、小学生のときに付き合った、六年生までは続いたけど他の中学にいって自然となくなったな」


 あー確かに私のところも住んでいる場所の少しの違いで通う中学校が変わったりもしたけど、すっごくもったいないっ。


「私達のときにもいたよね、小学生のときから付き合っている子」

「いたいた、中学校になっても仲がいいままですごかったよ」

「そいつらはすごいよ、実際はさっきお前らが言っていたように――」

「さとこって名前で呼んでください」


 おお……って、すごいな本当に。

 ふざけて言うことすらできない、冷たい顔をされたらこちらは一撃死だ。


「さとこ達が言っていたように難しいんだ、付き合っていなくても一緒にいられるしな」


 陽キャってすげえええ! 真顔のままやってのけるとかおかしいよ……。


「ありますあります、無理をする必要はないんじゃないかと考えてしまうことが多いです」

「だよな、さとこはよくわかっているみたいでいいわ」

「あ、なおに言っても『え、もったいなくない?』などと返されるだけなので気を付けた方がいいですよ」

「容易に想像できるし、ひとみを見る度に余計なことを言ってきたりやってきたりするからな」

「あーもう被害に遭ってしまっているんですね……」


 ふふ、いいさいいさ、好きに協力してくれればいい。

 私からすればこういうやり方のストレートはノーダメージだ、寧ろ理想通りになっていて鼻息が荒くなってくるぐらい。

 とはいえ、一人ふがふがしていても気持ちが悪いから頑張って抑えているというわけ、というわけでこちらのことは気にせずに自由にやってくれればよかった。

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