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227  作者: Nora_
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 両腕を広げて待っていたのに結局あの人がなにかをしてくることはなかった。

 傷ついたとかそういうことはないけどまだまだ曖昧な時間が続きそうだと考えると少しテンションが下がる。


「おーっす」

「こんにちは」


 今日は土曜日だから約束をして集まっていた。

 そう、こうして一緒に過ごしてくれるからこそ出てくる問題もあるわけで……。


「暑いですね」


 これだ、いまは曖昧な状態よりも汗臭くならないかが気になるのだ。


「だな、大して意味もないのに袖を捲りたくなる」

「気になるお店があったら入るという緩いお散歩ですし、プールとかにいきますか?」


 海でもいい、とにかく汗臭くならないようにできるのであればそれでね。

 ただ、怖さもあるからプールの方がいいかな、だって余程のことがない限りは溺れてしまったりしないよね……? 川とか海で起きた事件の話は聞くけどさ。


「水着は?」

「ありますよ、あんまり身長とかも変わっていないのでさとこといっていたときのそれがあります」

「ならいくか」


 先輩はどうしましょうかと言おうとする前にこちらの腕を掴んでどんどんと歩いていくから無理だった――ならいいけど、二人きりの方がいいと考えてしていないだけだとしたら自分のことでも嫌だな、と。


「お待たせしました」

「白いな」

「一応、日々気を付けていますからね」


 本来はそのために存在しているわけではない道具を駆使して背中などの塗りにくい場所にも頑張って塗っている、だから被害に遭わないで済んでいるのだ。


「水着の話だぞ? まあ、肌も白いから似合っているけど」

「ああ、さとこに『白にして』と言われたので拒まずに購入したんです、ちなみにあの子は黒色の水着を買ったのでもっといいと思います」

「意外だな、さとこは買わせておきながら自分は買わずに、なんなら日陰で休んでいそうだ」

「『だるい』とか『帰らない?』なんて言いつつもハイテンションなのがさとこです、夏は大好きなんですよ」


 気になる男の子がいるときは露出している部分を多くしてアピールをしていることもあった。

 だけどそれはあくまで私目線ではであって、歩いていればあの子なんかよりもよっぽど肌を晒している人達がいるのだから恐ろしい話だ。

 プールとか海ならわかるけどど……。


「さ、体操をして入るか」

「向こうもそうですけど、歩くだけでも大変なぐらい混んでいなくてよかったです」

「ああ、そんなに混んだりしないよ。他市にもっとでかいプールがあるからな、入場料金もでかいけど」

「はは、こっちに連れていってもらえてよかったです」

「ごちゃごちゃしていると同行者とすらはぐれるからな、ゆっくり楽しむにはこっちがいい」


 よし、お金を払ったからには楽しむぞっ。

 ここならいくらはしゃいでも汗をかきにくいというのが大きい、まあ、かいていても水で流されて気が付いていないだけ、他の人には申し訳ないけど諦めてもらうしかない。


「あっ」


 小さい子達は元気でいいけど衝突してくるのが怖いところだった。

 前を歩いていた彼の背中にくっつく、これではまるで自分からしたくてしているように見えてしまうからひぇぇとなった。


「大丈夫か?」

「は、はい、すみません」

「気にするな、あと、もう少ししたら昼飯を食べていいか?」

「はい、見にいきましょう」


 少し高いけど美味しいからわくわくする。

 並んでいる時間も楽しめる、その間は彼とゆっくり話せることも大きいね。


「え、どれにしよう……」

「俺は牛丼だな」


 なら肉まんにしよう、ピザまんが好きだけど今回はノーマルにした。

 そこまで時間もかからずに今日ももしゃもしゃ食べていると「出ていると暑いな」と言われて頷いた。


「なお」

「なんですか?」


 そういうことかとすぐに察して半分食べるかどうかと聞いたら今度は自分が首を振られる番だった、あとは聞かれたくないのかぐぐいと距離を詰めてきてまたひぇぇとなる。


「さっきの心臓に悪かったよ」

「あ、あれは事故で……」

「でも、どんな理由であってもくっつかれたらな、服を着ている状態でもないからな」


 先程から現在進行形で心臓に悪いことばかり起きているのはこちらの方だけど……。


「ち、近いですよ」

「あ、悪い――じゃない、ちょっと来てくれ」


 や、やばい、流石に水着姿となれば私でもこう……うおー! となってしまったのかっ。

 前みたいな謎の補正がかかってしまっている可能性もある。


「ほい、パーカー」

「って、なんじゃそりゃ……」


 あの体調が悪かったときなんかよりもよっぽど倒れそうになる対応だった。

 不安だったけど少し期待していた私に謝ってよっ、内で大暴れだ。


「濡れたからな、夏でも油断していると駄目だろ? 体が冷えたり熱くなったりを繰り返すのもよくない――なんでくっついてくるんだよ……?」

「まもる先輩が酷いからです」

「え? あ……流石にいまやるわけがないだろ」


 というか、一旦お家に寄ったのはこれを取ってくるためでもあったのか。

 男の子は最悪、そのまま入れてしまうからなんでだろうと考えていたけどそういうことだったらしい。

 ぐっ、こちらのことを考えてくれていることへの嬉しさと、それと同じだけのそうだとわかっても残念感がすごかった。


「水着姿を見てがばっとくるような奴なら嫌だろ」

「でも、曖昧な状態が嫌なんです、私はまもる先輩が好きなんです」

「いやそれは言うなよっ」

「まもる先輩は段々といい雰囲気にしていきますけど結局は毎回そこ止まりですからね、待っているだけはやめたんです」


 体を離して彼を見つめる。

 うん、思い切り人がいるところでなにをしているのかという話だけど今日はこの環境が味方をしてくれるのだ。


「そ、そんな目で見るな、それに焦らなくたってここから出たら言うつもりだったんだけど」

「そうですか、でも、後か先かの話でしかありませんから」


 多分きらきらとした目で見ていると


「好きだぞ」


 と言ってくれたけど違う場所に意識を向けられてしまった。

 だけどごちゃごちゃ言わないよ、やっと曖昧な状態が終わったのだ。


「ありがとうございます――あ、そういえばひとみ先輩は最初のときに嘘をついていたということですよね? スカートを捲ったりなんかしていませんし」

「なんでそんな嘘をついたのかはわからないけどそうなるな、一回もそんなことをしたことはないぞ」

「んーそう言えば私がまもる先輩に興味を持つと思ったんでしょうか?」

「いや、それなら警戒するだろ? ひとみ的には俺が嫌で自由に言いたかった――」

「あ、それはないです」


 そんなのあるわけがない。


「じゃあ……なんでだろうな?」

「なんででしょうね? でも、あれがきっかけでまもる先輩といられるようになりましたからとにかくひとみ先輩にも感謝しかないです」

「はは、だな」


 簡単に幸せな状態になって彼に再度くっついておいた。

 でも、今度は周りのことを気にしてすぐに離れられてしまったから残念だった。

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