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地獄の案内人  作者: 餅月 響子


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第49話 開かれた暗黒の地獄の門

 小鬼と罪人たちが沢山集まる地獄の審判の間では、閻魔大王がたたくガベルの音で響き渡っていた。緊張感が増していく空間に一人の小鬼がゴクリと唾を飲みこんだ。


「史上かつてない最悪の罪人の裁きって一体何になるんだろうな。興奮してくるぜ」

「俺はいつもと変わらないけどな。罪人たちは同じだろ? 生き方は違えど、結局地獄に落ちちまうんだからなぁ、なぁ」

「そうだろうけどもさぁ……」


 小鬼たちでさえもざわざわと心が落ち着かない様子であった。閻魔大王の横にいる司命と司録はもっと緊張感が漂い、いつも呼吸の仕方を忘れるほどだった。


「ひぃ!」

「何をやっているんですか」

「こんなこと初めてじゃないですか。息をするのも忘れてしまうわ」

「……世話の焼ける人ですね」

 

 司録は司命の背中をさすって落ち着かせた。まさかの対応に司命はハッと気づかされる。いつも邪見な扱いをする司録が違う人に見えた。下界におりて性格が変わってしまったのだろうか。左隣にいた鬼童丸も目を見開いて驚いていた。


「ほら、しっかりと見届けましょう。これ以上の罪深き人が出ないように監視しておかなければ……」

「そうですね」

「―――地獄名の茄子川 岳晃、お主に判決を申し渡す」

「はい。心得ております」

「お主の数々の重い罪の穢れをおとすには『八大地獄の阿鼻地獄』だ」

「……ありがとうございます」

 

 閻魔大王は茄子川 岳晃のまさかの反応に息をのんだ。ゆっくりと頭を下げて感謝を言うのは罪人の中でもごくごく稀が行動だ。焦り慌てふためいた様子でそれだけは嫌だと泣き叫ぶ者もいる中、冷静に対応する茄子川 岳晃の姿がさらに恐怖を感じてしまう。人間であるのかを疑ってしまうほどだ。


「……茄子川 岳晃、お主に聞きたい。なぜ、そんなに冷静な態度をとっていられるのか」


 閻魔大王は静かに聞いた。これまでかつてない茄子川 岳晃の状況に興味がわいた。


「そうですね。ある程度、自分自身と状況把握ができていたということでしょうか。これまでの人生を理解していたのです。必死で罪から逃れようとあがいてきました。両親に懇願して罪をもみ消してしまったことも数知れずありましたし、それを頭の片隅に追いやって無きものにしてきた私の罪は因果応報、いつか必ず返ってくるものだと……すぐに分からずとも数年先で訪れることさえも見抜いていたのです。もう悪あがきをする暇もありませんよ」


 閻魔大王は、史上最強の極悪人もここまでくると冷静になり、人間を超えるのではないかと考えた。言葉に詰まり、深呼吸をしてから話し出す。


「……罪の意識を理解しての行動ならば、本当にこちら側の人間で活躍してほしいくらいもったいないやつだ。来世は地獄とは無縁の生き方をしておるとよいな」


 罪を犯すことなく、平穏な暮らしをしていたならば、活躍できる場所はこれまで以上に素晴らしい人間だったはずと閻魔大王は賞賛する。


「ありがたいお言葉に胸が熱くなります」

 

 ふと閻魔大王の予想外な言葉に茄子川 岳晃は涙があふれた。どんな悪人にも必ず良い所があると救いをもたらしてくれるのかと地獄に行く前に感情をかき乱されていた。


「岳晃~、地獄に行く前からそんなんじゃ、いくつ命があっても足らないぞ。まぁ、これから行く阿鼻地獄まで何千年以上かかるけどな」

 

 冷やかすように地獄谷正真が近づいてきた。そろそろ出番かと湧き出て来た。


「正真、まだ早いぞ」


 司録が小声で叫ぶ。審判中の侵入に真面目な司録は気になって仕方ない。


「全く、閻魔様も甘いよなぁ。俺の時なんかガベルを何回もたたいてささっと行けなんて雑に扱われていたんだから。お前はいいよなぁ、丁寧に扱われて……」

「何を言ってるんですか! まだ終わってませんよ」


 さらに小声で後ろに戻れと指示を出すが聞いていない。


「正真……お前は俺の代わりだろ」

「……え?」

 

 茄子川 岳晃は地獄谷 正真に眉を垂れ下げて、話す。正真は何を言ってるのか理解することができなかった。閻魔大王はそのまま続ける。 

 

「地獄の扉は開かれた。さぁ、行くがよい!」


 大きな音を立てて、漆黒の地獄の門が開こうとしている。誰にも止めることなどできない。邪悪な雲やコウモリ、カラスが泣き叫ぶ。空気がどんより重く感じた。鉄球がつけられた左足をゆっくりと動かして、ひきずりながら進んでいく。


 小鬼たちは通れる道を作り、じっと茄子川 岳晃の様子を静かに見守っていた。

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