第48話 地獄の最悪罪人の審判
王座にどっしりと構えて座る閻魔大王は、白い御猪口に注がれた、できたての新米で作られた高級日本酒をグビッと飲み干した。頬を少し赤くしてニヘラニヘラと笑う。思う存分、遅れて来た司命と鬼童丸に言葉の罰を与えていた。
「もうこりごりですぅーー。堪忍してくださいませーー」
「もう遅刻はしません!」
二人は土下座をして何度も謝った。閻魔大王は首を縦に振ろうとはせず、持っていたキセルで煙を吸い込み、口をとがらせて大きく息を吹きかけた。辺りに独特の匂いが漂っていた。
「―――それで? 司録、頼んでいたことは済ませてきたのか?」
閻魔大王は突然真剣な面持ちで、司録に話しかける。横には、低姿勢な格好になっていた茄子川 岳晃と後頭部に両手を乗せて、リラックスモードの地獄谷正真がいた。
「ええ、閻魔大王様。仰せの通りにいたしました。あとは、正真に最期の仕事をしてもらうまでですね」
「……ほぉ」
口角を上げて、ご機嫌になる閻魔大王に司録は胸をなでおろす。地獄谷正真はずいっと体を乗り出して口を開いた。正真が前に出ると、茄子川 岳晃は、フラッと体がよろけた。
「俺の仕事って、本当は罪人を減らして閻魔大王様の仕事を楽にさせるって話じゃなかったのか?」
「ふん、そんなの口実だったくせに、よく言うわ。本当のことを良く隠して、まぁ、のうのうと過ごして来たもんだわ。そこだけは感心するけどなぁ」
「敵を欺くには味方からとはよく言いますものね。閻魔大王様」
司録はチラッと司命の顔を横目で見ていた。
「―――え、それって、まさか、私のことではないでしょうね?」
土下座を何度もしていた司命が冷や汗をかきながら問う。鬼童丸はごくりと唾を飲みこんで黙っていた。
「さーて、誰の事を言っているのかは、自分の胸に手をあててよーく考えてみることだな。なぁ、司録」
「ええ、その通りです。閻魔大王様」
「そ、そんな、ここですか? こんな感じでいいのでしょうか。いくらここに手を当てても心臓の音しかわかりませんが……」
「いつまでもそうしておくがいい! さ、本題に入る。司録、今後の状況を」
「そ、そんなぁー……」
司命は、体を震わせて残念がり、鬼童丸に慰められると、後ろの隅の方でいじけていた。司録は、巻物を片手に今後の活動報告を閻魔大王に知らせた。
「御意!」
司録は、着物の袖口を揃えて深いお辞儀をした。
「あー、つまんねぇなぁ。それって話長くなるやつ? 俺、耐え切れないなぁ」
片耳の穴掃除をしながら、首をポキポキ鳴らす地獄谷正真は、あくびまでし始めた。長い話は耐え切れない性分だ。隣にいた茄子川 岳晃はきょとんとさせる。
「正真、大事なことですよ。しっかり聞いておきなさい」
「ちぇ……仕方ねぇなぁ」
「……私も聞かないといけないことでしょうか」
司録は額に筋を作り、指を差して閻魔大王の近くに寄れと指示を出した。後ろにいた茄子川 岳晃は大人しく待っている。
「そうですね。一番、貴方に関わることですので、しっかりと聞いていただけますか」
「あ、そうなんですね。ごめんなさい。理解できていませんでした」
そう返事すると、地獄谷正真の隣に静かに移動した。姿勢よく人の話を聞くぞというしっかりとした態度をして、司録はほっと胸をなでおろしていた。
(想像よりも大人しく、他人の話をしっかりと聞ける人……見かけによらない方ですね)
巻物に書かれていたのは、地獄名は茄子川 岳晃、下界の名前は小茄子川 岳虎の生い立ちとすべての罪状が書かれていた。警察に捕まるはずが両親が警察関係者ということで揉み消されて罪を償うことなく、のうのうと生きてきた。その罪は数知れず。表沙汰になったことで死刑判決までたどり着く。殺人や窃盗、実親への危害、兄弟の殺害など数えきれないの件数だった。司録は、まさか最初から阿鼻地獄行きの重罪であることは知っていたが、ここまで酷いものとは信じられなかった。
「貴方は底知れぬ闇を抱えている方なんですね……」
「……闇ですか。その一言で片づけられる人生だったかは言葉で表現できません」
「闇ねぇ……おもしれぇじゃん。俺、闇って嫌いじゃないよ」
「正真、貴方は静かにしていてもらえますか?」
「ほぉーい」
「閻魔大王様、茄子川 岳晃氏に正式な審判を下していただけますか」
「今までかつてない史上最強の悪者だ。丁寧に審判させてもらおうじゃないか」
「閻魔様、楽しそうだねぇー」
「正真、しーーーー!」
司録は、人差し指を立てて唇に当てた。地獄谷正真は舌打ちをして、そっぽを向いた。自分にスポットライトがあたらないことにご不満のようだった。
「お願いします」
茄子川 岳晃は静かにお辞儀をして目をつぶった。閻魔大王のガベルの音が大きく響いた。行列をなしている罪人たちと小鬼たちがざわついている。特別枠での審判が行われていることで周りは緊張感が増していた。




