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地獄の案内人  作者: 餅月 響子


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第43話 共犯になった過去

 ――――思い出したくない過去の記憶。本当は分かっていた。洗脳したと思いたくない。頭の中の記憶を消しゴムや修正液で消せるなら今すぐにでも消し去りたい。


 躑躅森 顯毅の罪とされてきた人間界での殺人事件。すべての犯人は、警察官の父を持つ小茄子川 岳虎だった。


 雑木林でマツタケやタケノコを見つけようと放課後の薄暗い夕方に暇つぶしに探し回った。その時は夢中になって駆けまわっていた。家から持ち出したスコップ片手に大きな米袋に収穫したマツタケとタケノコを入れて、豊作だと騒いだ。いつも隣にいたのは幼馴染である小茄子川 岳虎だ。他人の山の中で野菜を取ることは許可を得ないと違法行為であることを知ったのは、土地の所有者である服がボロボロの名前の知らないおじさんから教わった。骨が見えるくらいのガリガリで服もいつ洗ったのか汚いまま。生きているのかというくらい元気のない姿で注意するのは鬼のような形相だった。


「お前たち!? 何をしてる? 誰だ。他人ひとの土地に勝手に侵入しているのは」


 まだ未熟な二人には善悪の区別がつかない。いくら警察官の父と言えども小学生の知識は浅いものだ。


「え……えっと。今日の夕飯のためにタケノコ掘っていた! おじさん。誰だよ」

 

 小柄で体力もない。悪いことだと知る由もない。経験が足りないのだ。


「おじさんは、この土地の持ち主だ」

 

 くたびれた服を着ていても、土地の所有者であることは間違いない。証明するものが見せられていないが、勝手に入っているという事実は分かっていたからだ。

 低い声でじりじりと迫ってくる。おじさんが手に持っていたのは大きな斧。これから木を伐採でもするのだろうか。


「おじさんがこの山の持ち主かぁ。知らなかった! なぁ!」

「お、おう。そ、そうだな……」


 父の教えに反することをしているのを改めて気づいた小茄子川 岳虎の体は小刻みに震え始めた。返す言葉にも自信がない。躑躅森 顯毅は悪さをしても誰も怒る人がいない環境で育ったため、感覚は相反していた。自由な発想でおじさんに近づく。


「おじさん! 木でも切るの? 木こりなのかなぁ?!」


 話の論点が変わっている。その言葉を聞いて怒り心頭だ。


「……誰が木を切るって?! 言うことをきかないやつに脅しをかけるために決まってるだろ!?」

 

 この雑木林はたくさんの侵入者がいると聞いたことがあった。犯人は自分たちだけじゃないはず。そう思っていたが、小学生の二人を見て怒りはさらにヒートアップしたようだ。刺すつもりはなくても振り下ろした斧が体に当たりそうになる。枯れ葉を踏みしめて、逃げ惑う。正当防衛の言葉が思い浮かぶ。



 幼いながらにして小茄子川 岳虎は、父言葉を思い出す。誰かに襲われた時、自分の命を守る行動をしろと指導されてきた。殺されるのではないかと不安が大きくなる。持っている力を振り絞って、おじさんに真正面から立ち向かっていく。斧を振り下ろす瞬間に両手に力いっぱいのチョップをくわえて、斧を奪った。


 横で見ていた躑躅森 顯毅の息は荒くなっていた。米袋から収穫したタケノコが零れ落ちる。


「悪いのは侵入したお前たちの方なんだぞーーー!! そのタケノコだって持っていけば、泥棒なんだからな!!」


 おじさんは、必死で自分は悪くないとアピールする。小茄子川 岳虎の心臓は早まった。恐怖を打ち消したかった。思わず、奪った斧を振り下ろした。不可抗力とも取れない行動だった。おじさんの頭に思いっきり当たって、割れた。血しぶきが辺りに飛ぶ。躑躅森 顯毅の顔におじさんの血で線のような模様がタトューのようにできた。


「う、ううううわーわああーあああああ」


 自分の行動が信じられない小茄子川 岳虎に躑躅森 顯毅は冷静に肩を撫でた。


「落ち着いて……」


 躑躅森 顯毅の顔にたくさんの血が付いている。小茄子川 岳虎の手にも血がたくさんついていた。膝から崩れ落ち、完全なる絶望を味わった。


 違法だとうすうす感じていながらのタケノコ掘りとキノコ狩り。持ち主に見つかり、怒られての斧での犯行。精神状態は錯乱状態。そんな中、躑躅森 顯毅は地面に投げ出された斧をつかんだ。


「これ、全部。俺がやったんだ……な。岳ちゃん」


 放心状態で何も言えなくなる小茄子川 岳虎。、躑躅森 顯毅は証拠を残すかのように残りのおじさんの身体に斧を振り下ろした。


「これで、仲間だな……」


 ここから地獄の扉が開かれた二人だった。

 

 じめじめとした雑木林の中、暗雲が立ち込めて雨が降り出した。

 空気が重く感じた。

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