第39話 明かされる真実
地獄絵図のように血まみれの警察署の様子を見た地獄谷正真は、立ちすくんだ。鴇 甚録の脳内で腰を抜かす。鴇 甚録本人が体を操縦することになり、指をぽきぽきと鳴らして気合を入れた。
「ここから力の入れ時ですね。そこで見ていてくださいね!」
「…………」
地獄谷正真は想像もしなかった光景に何も言えなくなっていた。
留置場にはぐったりと動けなくなっていた鴇 甚録の姿が。鉄格子の向こう側には眉間にしわを寄せる小茄子川 岳虎の姿があった。ルールを破るのは性に合わない。正義を貫くのは警察の仕事だと重々知っていた。だが、感情が抑えきれなかった。そこに地獄谷正真も躑躅森 顯毅もいない。目の前にいるのは、鴇 甚録そのもの。空気が変わったのを感じ取れなかった小茄子川 岳虎は、鉄格子のカギを開けて、中に入った。これでもかという力を使って、鴇 甚録に柔道技を繰り出そうとした。
「おやおや、選手交代ですよ。落ち着いてください」
「……俺は……俺は、正義を貫く仕事をしてるんだ!! 躑躅森! お前に俺の人生を狂わせることはさせない!!! 地獄に行け!!」
軽く交わす鴇 甚録に小茄子川 岳虎は未だ、躑躅森 顯毅の亡霊があると錯覚する。拳の早さと力が強すぎて、頬に線が入ったように出血した。息を荒くして、逃げ切るが、どんどん技を繰り出す。小茄子川 岳虎は、無我夢中で闘っていた。これから処罰される容疑者を懲らしめようとする考えは法律上、許されることではない。
「小茄子川 岳虎! しっかりしろ! おい!!!」
鴇 甚録は胸ぐらをつかんで制止する。正気でなかった。小茄子川 岳虎は、感情的になり、額にも筋を作るくらいの熱量があった。ハッと気が付いた時には、壁に穴を空けていた。パラパラと破片が崩れ落ちる。息を荒くし、汗がしたたり落ちた。
「落ち着いてください。私です。鴇 甚録です。地獄谷正真も躑躅森 顯毅もここにはいませんよ」
膝から体ががっくりと倒れていく。理性を止められず、とんでもないことをしてしまったと意気消沈していた。鴇 甚録は肩にそっと触れて撫でた。
「小茄子川さん。あなたの人生を狂わせるために躑躅森は降りてきたわけじゃないです。あなたの罪を償ってほしいがために来たんですよ。あなたですよね。10年前、子供の遺体を小学校の校門前に置いたのは―――」
生気を失ったような顔をした小茄子川 岳虎は、目から静かに涙を流した。もう逃げることはできない。自分の罪を償わなければならない時が来たんだと感情があふれ出て来た。隠し通したかった警察官であるがゆえ、殺人事件を起こした過去を。
小茄子川 岳虎は自責の念に駆られ、天を見上げながら叫び喚いた。
「ああああああああーーーーーーーーーーーー」
鴇 甚録は小茄子川 岳虎の背中をゆっくりとさすった。感情が落ち着くまで静かにじっと待ち続けた。
部屋にある掛け時計の針だけが鳴り響いていた。




