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地獄の案内人  作者: 餅月 響子


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第38話 浄波璃の鏡の向こうで

―――閻魔大王の審判の間から、閻魔大王は何者かによってヒモで拘束されて身動きが取れなくなっていた。王座の間には、司命の姿があった。両サイドには赤鬼と青鬼がついており、口の中でさきイカをくちゃくちゃとむさぼり食べていた。


 横に置いている浄波璃の鏡に映し出されているのは、下界の警察署内にある留置所にいる小茄子川 岳虎と鴇 甚録の体に憑依している地獄谷 正真の姿があった。脳内の鴇 甚録は、見えない力により体が硬直して、動くことができない。歯をくいしばって力を出し切ろうとするが、難しかった。


「早くしないと、このままでは2人ともが……」

 鴇 甚録が指先に力を込めて、念を唱えた。


かい


「それ、解いちゃうかぁ……まだ見ておきたかったなぁ」

 

 鏡の向こう側、まるでスポーツ観戦をするように司命は見つめていた。それ以上はやらせないと目を赤く光らせて念を込める。


封印ふういん



 鴇 甚録の脳内の体が、見えない何かに床にビタンと押し込まれた。うつ伏せになって動けない。


「くっ……私の動きをとめてどうするつもりだ……司命!」

「おっと……私だってことがバレているのか」

 

 声はこちら側に届いていない。司命は名前を呼ばれて焦りを見せた。ヒモで縛られて身動きとれなかったはずの閻魔大王が顔を赤くさせて王座の間に現れた。地響きが繰り返される。周りにいた罪人たちと小鬼たちは、怯えに怯えて右往左往してパニック状態だ。その様子でさえも気にしない閻魔大王はゆっくりと司命が座る王座の間に近づいた。司命は、数センチ近くに来ても気づくことはなかった。今は、それどころではない。浄波璃の鏡に鴇 甚録が映っているのを必死で追いかけていた。


「……司命」

「待ってろよ、今。私の力で……え、え、閻魔大王様。これはこれは。お目覚めでいらっしゃいますか?」

「司命!!!!!!!!!!!!!!」


 地獄に住む鬼よりもさらにさらに恐ろしい姿の閻魔大王が司命の前に立ちはばかった。


「ひぃぃいいいいいい、はいーーーーーーー」


 胸ぐらをつかまれた司命は、どうすることもできない。閻魔大王は言わずもがな黙って理解しろばかりに顔を顔に近づける。横にいた子分の赤鬼と青鬼は早々に立ち去っていた。周りには誰もいない。王座の間にいるのは、閻魔大王と司命のみ。罪人たちと鬼たちは、閻魔大王に怖気づいて姿を消していた。


「わかっているだろうなぁ? わしの言いたいことが」


「……ひぃいぃいぃいぃいいー」


「さきいか、勝手に食うなって言ってるだろう!?」


(それ、今じゃない! 絶対今言うこと、それじゃない!!!)

 

 ひと悶着あったあと、正式に司命は閻魔大王のお叱りを受けた。それは、地獄に行くよりも恥ずかしめであり、残酷だった。額や顔にたくさんのたんこぶを常に作り、さきいかを餌に食べれそうで食べられない状態を毎日過ごしていた。


 閻魔大王は、思う存分お皿いっぱいのさきいかを王座の間に座って堪能していた。


「あー、うまい。って、何か忘れている気がするけども……まぁよい。次の罪人よ、呼べ!」


 横にいた赤鬼が慌てて罪人たちの行列から閻魔大王の前にすすめた。


『閻魔大王様!! こちらです。ここです! 助けてください!』


「ん? どこから声がするんだ」


「閻魔様。浄波璃の鏡からです。下界より鴇 甚録からの連絡が入っております」


 青鬼が説明すると、閻魔大王は首を鏡の方に向けた。呼ばれた罪人は確認もせず指1本で八大地獄に送り込まれた。泣き叫ぶ姿は閻魔大王の目には入っていない。小鬼たちに連れていかれる。


「甚録! 何事だ。何の騒ぎなんだ」

「大変です。閻魔大王様。早く私の術を解いてください。早くしないと、地獄谷正真と小茄子川 岳虎が……!!」

「まさか、覚醒したんじゃないだろうなぁ。せっかく見張りをつけたというのに! 急げ。急いでとめるんだ」

「御意!」


 すぐさま、司命にかけられた術を解くと、脳内で動けなかった鴇 甚録本人の体を起こし、乗っ取っている地獄谷正真に声をかけた。地獄谷正真は、もう本来の姿をしておらず、覚醒状態に変化していた。


「正真!! 目を覚ませ。私の体を勝手に操るんじゃない!!」

 

 右手拳を正真の頬に向けて意識を呼び起こした。体は宙に舞い、床にたたきつけられた。


「な、何するんだ!」

 目の色が元の正真の色に戻りつつある。


「しっかりしろ。また殺人事件を起こして、地獄に行きたいというのか!?」

「……へ? 俺がそんなことするわけ……ねぇ……ってこれはどういうことだよ!?」


 脳内から見た景色は想像を絶するくらいの真っ赤に染められた残酷なシーンだった。


「まともな考えに戻ってくれて安心した。私の体を返しなさい。ここからもっと大変

になるんですから!」


「え、甚録さん。それってどういうことですか?」


 地獄谷 正真は、投げ飛ばされた体を起こして冷静に答えた。甚録は、手のひらを広げて胸に手を当てた。青白い光がともると力が倍増する。


「そこでゆっくり見ていてくださいね」


 鴇 甚録の体は本人が操ることになった。留置場の前には、小茄子川 岳虎の姿があった。



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