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地獄の案内人  作者: 餅月 響子


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第32話 ただよう地獄の空間

 マジックミラーがある取り調べ室には署長の重松 則夫と副署長の森山 憲治郎が、緑茶の入った湯のみを持ちながら、もう片手には和菓子を摘まんでいた。取り調べを見ることよりも、次の接待ゴルフはいつの予定かなどと話し合っている。まともに仕事をしていることを見たことがないと副署長の森山の妻である多麻子はそう思いつつ、次から次へと差し入れのお菓子と追加のほうじ茶を準備していた。2人の雑談を横で聞きながら、ちらりと取り調べ室を覗く。異様な空気である雰囲気をやっと、理解した。


「署長、副署長。お仕事、しっかりしましょう。中の様子が緊急事態の……用ですよ……がくちゃ……」


 ガシャンと持っていた湯のみを床に落として、割ってしまう。想像絶する部屋のありさまにみな、呆然と立ち尽くしたかと思うと、急いで、中の方へ駆け出した。


「な、な、何をしている?!」

「一体、どういうことだ。取り調べ室で血が飛び交うなどと前代未聞だぞ。おい、なぁ。甚録!!」


 重松と森山は血相を変えて、じりじりと部屋の中に入る。森山は、床に足がすくんで立ち上がれなくなった容疑者の1人辻岡 将人の肩にそっと触れるか震えて動けなくなっていた。さらに隣にいた岳虎は額に大量の冷や汗をかいて、甚録に手を伸ばそうとしたが、別人の誰かの姿を目のあたりにして、どうすればいいかと躊躇した。


「甚録!!! 何をしたんだ?!」


 思わず、署長の重松が叫んだ。本物の甚録は憑依の空間の中で金縛りにあったように動けない。言葉を発することもない。甚録の体を動かしていたのは、甚録の背中に2重の姿で薄く浮かび上がる地獄谷 正真だ。甚録の手から伸びる不気味な鋭利な刃物。人間の首を一瞬で切り刻んだ。何をどうやったら、そんなことになるのかと自分の目を疑う署長の重松は、ある男の姿と重ね合わせた。


 約10年以上前に残虐に殺人事件を引き起こした犯人の姿。それは躑躅森 顕毅(つつじもり あきたけ)という幼児と小学生の首をナイフで切り、路上に生首のように置いたされるサイコパスな青年だった。当時のバラエティやニュースでは犯人の生い立ちでテレビを埋め尽くされるほどのアイドルのように注目を浴びていた。悪いことをしているはずなのに、一部の人間のファンクラブができるほどで、顔立ちは綺麗で殺人を犯す者には到底見えなかった。


「まさか、お前か! 10年前の事件を起こした……おかしい。あいつは死刑の執行が済んだはずだ。この世に生きているわけがない。ど、どうして、ここに……」


 署長の重松は言葉を失う。あまりにも仕草や恰好がそっくりだったため、自分の目を何度もこする。さらに副署長の森山は、署長の言う通りにあの時の事件を思い出す。サイコパスな犯人が近くにいると思うと、額はびしょ濡れに無意識のうちに後退してしまう。


 皆、手足が震えて身動きがとれない。自分自身の命も奪われるのかもしれないと思うと、逃げた瞬間どうなるかわからない。


 刃物のように尖った腕を血を洗い流すように正真は舌で舐めた。もう、甚録という姿はない。地獄谷正真の体に乗っ取られてしまった。


「さぁ、さぁ。これからどうしようかぁ」


 鳥肌が一気に立ち上る。サイレンが署内に響いた。

 状況を読んだ河野芽衣が放送室でサイレンを鳴らすように指示を出していた。

 その場にいた皆の鼓動が早まっていく。


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