第3話 黒い闇の中に包まれる
――――「お前に見せてやる。地獄の恐ろしさを!」
地獄谷 正真の手のひらから黒い闇が生まれる。
モヤモヤと男を包みこんでいく。
頭の中に正真が経験した地獄の体験を男に知らしめた。
動物や生き物を殺した人間が送り込まれる地獄は『レベル1の等活地獄』と言われている。罪の償いをするために過酷なミッションを与えられる。生きている時よりも辛い経験だ。図体の大きい髭面の赤い鬼に包丁で手足を切られ、内臓を取り出される者もいれば、罪人同士で争い体を引っ張りちぎり、身体をバラバラにされてまた戻っての繰り返し。肉体ではない霊体のため生きてもいないし死ぬこともできない。ただ、ただ苦しいだけの世界。この時間が500年も続くとされている。正真はこの地獄を味わってからさらに辛い地獄に行っている。
現代に戻ってきた男の目は止めどもない涙があふれ出ていた。実感する地獄の世界を目の当たりにして、おんおん泣きながら、顔を両手で覆った。
「これは俺の記憶をお前に映し出しただけだ。実体験ではない。地獄がどういうことか分かったか?」
すがるような思いで男は、正真に泣きつく。
「お、俺。地獄に行きたくない。頼む。やらないから、二度としないからどうにか地獄に行かなくて済む方法を教えてくれ」
男は、ズルズルと正真の黒いズボンを引っ張る。正真は、そこまですがるのなら初めから悪いことなんてしなければいいのにとふーっとため息を漏らす。
「まぁ、俺も、やっちまった人間だから。ダメだと思ってやってしまう気持ちもわからなくもないけどね。まぁ、叶えてやるよ。脳みそをちょちょっと変化させるだけだ」
正真は、男の頭の上でパチンと指を鳴らした。これは現実か夢なのかと信じられないくらいに目の前が真っ白になる。男の体が一瞬にして水のように細かく消えていった。足元の地面はびしょ濡れになって水たまりが出来上がった。正真は、水たまりをのぞき込む。水に映る空は青く透き通っていた。
「これで更生されるのか? いいなぁ。自由なやつで。俺よりも」
しゃがんでボソッとつぶやいた。またタバコに火をつけた。煙を吹くと、空中に閻魔大王の顔がぼんやりと映った。
「地獄谷正真。一部始終見ていたぞ。最後の最後まで、その男を追いかけるんだぞ。しっかり見届けるまで終わりではないからなぁ」
険しい顔の閻魔大王に正真は口笛を吹いて見て見ぬふりをした。隣にいた司録と司命は次々と増え続ける案件をこなしていた。正真が下界にいても罪人はすぐに減ることはない。タバコを吸い終わると、煙も消えて閻魔大王の姿も見えなくなった。
正真が立ち去った後の水たまりの中に入ると、その中は鳩殺しの男の過去に遡っていく。鳩に手を下す前の様子やその場面に行きつく前の状態まで時は戻された。