第26話 地獄谷 正真の隠れた真実
―――岳虎は自然の流れでセダンのパトカーの運転席に座る。いつも年上にごますって生きている彼にとってはそれが普通だった。
『言葉には重々、気をつけてくださいね』
『わかってるよ、俺がそんなミスするわけないだろ』
甚録の脳内では、甚録と正真が言い合っていた。今回、甚録の肉体を操るのは、正真の役割だ。インテリの設定で人間界では合わせている。正真の口の悪さには少し甚録も気がかりではあった。いつ、ボロを出すのか不安で仕方ない。
「小茄子川くん、現場に行くのは長いんでしょうか」
ラジオのパーソナリティの声が響いた。岳虎は慌てて音量を低くした。突然の質問に緊張感が増す。
「え、ええ。そうですね。牧角 滉史の幼少期の事件の時に巡査部長を務めていましたね。確か、あの時も強烈な事件があったような小学生の首を校門の前に置いた躑躅森 顯毅という名前だった気がしますね。追いかけた事件ではなかったですが、牧角の事件で思い出しました。何だか、夢のような感覚であの時の記憶が突然蘇ったんですよね……不思議だったなぁ。あれ、甚録さんが無事解決に導いていましたよね?」
正真が憑依した甚録は、大量の冷や汗をかいた。その事件の時の正真は岳虎の肉体に入り込み、牧角 滉史の過去の記憶に入った際に、なぜか一緒に岳虎の霊体も連れ込んでいた。記憶が蘇ったのはではなく、牧角 滉史の記憶を辿っていただけ。一緒にいて解決したのは甚録ではなく、正真だなんて言えない。躑躅森 顯毅は、地獄谷 正真の人間界での名前だ。岳虎は直接関わったわけではないが、当時のニュースを覚えているらしい。こめかみ部分がズキンと痛み出す。気づかれないように適当にごまかすことにした。
「私は何もしてませんよ。事件が私を呼ぶんです。そう、事件がね……」
腕組をして、ふぅーっとため息をつく。まるで何かになりきっているかのようだ。何を話しているのかよくわからなくなった岳虎は、ハンドルを回しながら、ラジオの音量をさりげなく上げた。天気予報の後は、今話題の人気ランキングで音楽を流していた。平気な顔で無視する性格なのかと正真は苦虫をつぶした。
フロントガラスに一つの波紋ができた。雨が次々と降り出した。ワイパーの動きを早くしないと視界が不良だ。ショッピングモールの駐車場には、ところどころ水たまりができていた。トランクに積んでいた大きな傘を二本取り出して、それぞれ広げた。救急車がライトを点滅させてとまっていた。けが人が出ているようだ。
「お疲れ様です。犯人の確保をたった今終えたところでして、手錠をかけて取り押さえましたよ」
交番勤務の巡査部長、坪井 太海が現場の状況報告をした。辺りには血痕が散らばっており、わんさかと集まる野次馬をおさえようとショッピングモールの警備員二名がいた。エスカレーターの影のところに凶器と思われる刃物が落ちている。岳虎と甚録は敬礼をして、手袋をはめた。坪井 太海は、捕まえた犯人を起こして腕をつかんだ。
「やめろって……自分で動くっつーの」
背中に手錠をはめられた犯人は終始機嫌が悪い。金髪でサングラス、黒いジャケットにダメージジーンズを履いている。




