第24話 警察署でのたわむれの恋
『あいつ……どこかで見た事があるような……気のせいか。うん。気のせいだ』
白く眩い光が差し込み、黙想したまま現実世界に戻った。小茄子川 岳虎の肉体は、警察署内のロビーでいびきをかいて爆睡していた。それをじっと見つめていたのは森山 多麻子だった。顔をじっと近づけて今にもキスをしそうな勢いだった。
「きゃーーー」
騒いだのは新人刑事の河野 芽依だった。二人が熱々でラブラブなのは署内で噂になっていたが、岳虎本人にとっては寝耳に水だ。年の差がありすぎて、無理だと首をブンブン振る。ざざっと体を起こす。
「あーら、がくちゃん。そんな拒まなくても、大丈夫。私は、未亡人。旦那に先立たれて、もう三年目。そろそろ新しい人いてもいいんだけどね」
「殺す気か、誰を。わしはまだまだ健在だ。勝手に人を殺さないでもらえるかな。たまちゃん」
警察署長の森山 憲治郎は、岳虎の後ろからひょこっと体を出した。多麻子の夫でもある。
「あーら、あなたいらしたのね。もう、いないかと思ったわ。毎日、夜遅くまでお勤め豪苦労様」
不機嫌な顔で通り過ぎる多麻子。若い人との絡みで楽しんでいた時間が一瞬にして現実に戻される。夫婦関係は冷え切っているようだ。
「また、そうやって意地悪なことを言うんだから、そんなに早く帰ってきてほしいのか」
「ふん……」
「え、ちょっと待ってください。署長と多麻子さんってご夫婦なんですか?」
河野 芽依は、初めて二人が夫婦ということを知った。多麻子と岳虎との絡みが本物っぽくて信じられなかった。それはもしかしてもしかすると大人な関係と想像すると顔が真っ赤になっていく。
「すいません、河野さん。想像力豊かですね。たぶん、その想像は間違っていますからね。大丈夫、妄想のままにしておいてください」
冷静に河野に説明する甚録に岳虎は気にもしなかった。
ふと、岳虎を見ると、正真の気が感じられなくなった甚録は、どうしてこうなったのかと辺りを見回した。ラウンジの椅子で放心状態の正真の霊体が見えた。誰にも見つからないようにそばに駆け寄る。自販機で缶コーヒーを買って、丸くて白いテーブルに乗せる。プルタブを開けて、正真に渡した。霊体用のコーヒーが送り込まれて、甚録も同じものを一緒に飲んだ。
『もう、あいつに憑依できない……』
「見ればわかりますよ。全く、やらかしてくれましたね。閻魔様はどう考えておられ
るのか……」
空間に異次元空間を丸く表示させる。鏡のようになった向こう側に地獄の審判の間が映し出された。いつものように閻魔大王がガベルをたたいているのかと思ったら、様子がおかしい。じっと目を凝らすと、閻魔大王ではなく司命が王座に座っている。閻魔大王の代わりに審判を行っているように見えた。横には補助役に小鬼たちがサポートしている。
「次の者! 入り給え。罪状を読み上げよ」
横にいた緑の小鬼は、罪人の罪状を読み上げ始めた。さらに左隣の赤小鬼が司命の言葉を記し始めていた。
「司命! これはどういうことだ」
虹色の窓の向こう側で正真と甚録が覗いている。司命は、気にせず、どんどん審判作業を執り行っていく。そこへずかずかと閻魔大王の足音が聞こえた。
「何事だ! なんだ、なんだ。わしのいない間に審判が進んでおるとはいったいどういうことだ! 説明せい!」
閻魔大王の姿を見つけると、すぐに王座からジャンプして立ち上がりささっとよけた司命。横にいた小鬼たちは右往左往して、冷や汗をかいていた。こっぴどく叱られるのではないかと尋常じゃない汗が飛び散る。地面が閻魔大王が動くたびに地震が起きる。罪人たちの行列が揺れるたびに乱れていた。
「ほほほ……わしもゆっくりできたな。さて、次々!」
急に笑い出し、上機嫌の閻魔大王。説明しろと言った言葉を忘れたのか、王座に座るとガベルを持って次の仕事はまだかと急かす。司命はほっと胸をなでおろした。まさか地獄におろされるのではと考えていたからだ。久しぶりの休みが取れて、リフレッシュになったようで閻魔大王はしゃきしゃき動き始めた。
『いいのか、あれで。大丈夫か?』
「閻魔様もご機嫌なら……予想外な対応でしたが」
人間界が映る窓の向こう、正真と甚録は、閻魔大王のご機嫌な様子にほっと安心するが、こちらのことに気づいてないのを確認してから窓を閉じようとした。
「おい! 何してる! 正真か? お前、人間に憑依していたんじゃないか。なんで霊体になってるんだ!」
『やべっ、気づかれた。ひぃーーー』
ズンズンと王座の間から異次元空間と人間界を繋ぐ窓にやってきた。正真は甚録の背中に隠れるが、閻魔大王は右左と首を動かして様子を伺った。
「遊んでるんじゃないんだ! 今すぐ、人間に憑依して任務をこなせ。早くしないと空間が歪む。また阿鼻地獄に行きたいのか!」
さっきまでのご機嫌だった閻魔大王はどこに行ったのやら、頭を両手で隠してすたこらささっと逃げてった。まさか、岳虎から体が抜け出るとは思ってもなかった正真は気持ちが小さくなった。




