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地獄の案内人  作者: 餅月 響子


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第22話 愛されない痛み

 遥大の家に着いて、良子と遥大を車からおろして、救急車を呼ぶ。パトカーには嫌がることをしない真紀がただただまっすぐに前を見て、後部座席に座っていた。何が起きているのかわからずに、火傷した遥大と祖母の良子が家の前で立ち尽くす。救急車のサイレンが聞こえてきた。申し送りをしないといけないなと岳虎はブロック塀の横で腕を組んで待っていた。甚録はさっきのミスを気にして、助手席に乗ったままおりて来ない。


「お疲れ様です。けが人の方はどちらですか?」

「あ、こっちです!」


 救急車からおりてきた救急隊の人が、良子に話しかける。どうすればよいかパニックしてなって何も言えない。岳虎が手をあげて、こういう状況だと改めて、話をし始めた。遥大の体を服をめくって確認する。だいぶ、赤くなって腫れている。ところどころ、水ぶくれもあり、皮膚の奥の方も見えていた。


「痛そうですね。火傷、大丈夫なの? 普通に立ってるけど」

「……かなり。痛い……」


 痛さを我慢して、ずっと立っていた。母がやったことは間違いないが、母のせいには絶対しなかった遥大だった。良子は、早々に連れていくよう救急隊の人に誘導する。


「では、付き添いの方は、おばあちゃんでよろしいでしょうか。一緒に乗って下さい」


有無を言わせず、良子は救急車に乗り込む。遥大は横に寝かせられて、血圧、体温、SPO2をチェックされた。火傷以外は特に問題ないようだ。ほっと胸をなでおろす良子に、寝かせられて初めて乗る救急車に興味津々の遥大だ。


「おばあちゃんですよね。状況を説明して頂いてもよろしいでしょうか」

「あ、あの……私は何もわからなくて、嫁の方が状況知ってるわよ。まぁ、あの人がやったんです。親子喧嘩がヒートアップしたんでしょう。見てませんけど、嫁です。私は何もしてませんよ」


 救急隊の坂本 隆敏(さかもと たかとし)は、その話を聞いて家族の関係性はあまりよくないのだろうかと冷や汗をかく。詳しい話は警察に任せようと、質問する相手を変更した。遥大の意識は、はっきりしていて、坂本の顔をちらちらと様子を伺っていた。


永田 遥大(ながた はると)くんで間違いないかな」

「うん……」

「火傷した時のことは覚えているかな」

「……お風呂場の熱いシャワーでなった……」

「……お風呂場ね。何度くらいだったか、覚えてる?」


 坂本はタブレットでメモを取りながら聞き続ける。割とはっきりとした口調ですらすらと話す。モノのことを伝えるだけで誰がやったとかは一切口にしていなかった。隠したかったのかもしれない。真実を言ったら、良くないんじゃないかと感じていた。


「―――詳しく教えてくれてありがとう。辛かったね、痛かったでしょう?」


 応急処置をして、包帯を巻いた。あまり体を動かさないように部位を固定する。会話しながら、てきぱきとこなす。遥大は物凄く痛みがあったが、祖母に迷惑をかけられないと思い、必死に耐えた。祖母は耐えていることさえも知らず、さっきからずっとブツブツとスマホ画面を眺めながら、母真紀への悪口を言っていた。


「全く、これから仕事へ行こうとしていたのに、こんな事件を起こして……真紀さん

は人に迷惑かけることしかしないわね。それに、雄治も、電話にさっぱり出ないで、仕事仕事って、本当に遥大がかわいそう。もう、どうしよう、これから……」


 かわいそうと言いつつも、全然心配されていない言動にモヤモヤ感が残る。自分は大切じゃないんだと思う遥大だ。


「救急車のおじちゃん、おばあちゃんいなくても僕、大丈夫だから。帰ってもいいって伝えて」


「え? あー……そうなの? 他に誰か呼べる家族はいるのかな?」


「お父さんに電話してほしいです。お願いします」


「うん。そっか、わかった。そうするね」


 坂本は遥大の要望に応えて、スマホをいじって忙しいそうにしてる良子に声をかけた。近くの病院に着いてから帰っても大丈夫なことを伝えると嫌な顔を一つせず、むしろ笑顔だった。良子は、帰りたい一心で遥大に大丈夫という言葉さえもかけなかった。いくら孫と言えど、本心から大事にされないならいない方がマシだと思ってしまう。総合病院の救急車入り口で祖母の良子と別れた遥大は想像以上に心が落ち着いた。母に攻撃されたのに、祖母のそばにいるのが苦痛になる自分自身はおかしいのかと疑いを持ち始める。ストレッチャーに乗った遥大はそのまま外科の処置室まで運ばれた。ドラマで見たことあるような対応をされるなんてと少し興奮気味だった。意識がはっきりしていたため、医者や看護師の対応も静かだった。


 眼鏡をかけた先生が青いスクラブを着て話しかけてくる。安心した遥大は眠りについた。麻酔をかけられたわけじゃない。安心感がそうさせていた。ずっと火傷した時から痛かった。それをずっと我慢し続けていた。麻酔科医の先生もまだやっていないのに驚いていた。電子カルテ内容を見て状況を確認する。個人情報と火傷をした経緯が記されていた。



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