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地獄の案内人  作者: 餅月 響子


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第21話 感情かき乱され崩れていく家族

「な、な、なんでわからないの? あなたがやっていることは犯罪よ? 私も子育てしてきた母親だけども熱湯を子供にかけたことは一度もないわ! 事実を認めて!」


 姑という立場を利用して言っているわけじゃない。もっともらしい、真実を述べているだけだ。それは、真紀もわかっていた。でも、何かが足りない。弱者を守る。それは一番にわかっている。弱者って過去に弱い立場にあった人は弱者にならないのか。高熱が出ても誰も助けてくれず、それでもご飯や洗濯、掃除をやらなくてはならないミッションをこなして、報酬はない。熱が出ようが、息が苦しかろうが、それでも目の前にいる幼子を守ることをしなくてはいけない。重々母親になってわかってるはずの真紀も、目の前にいる良子のことはただ、ただ説教する昔の教師そのものに見えてくる。


「そうやって、上から目線で、私をいつ助けてくれましたか?」

「……え? いや、だから、今、私言ったじゃない。悪いことはしちゃダメだって」


 元小学校教師の姑だ。ダメなことはダメという指導をするのが当たり前だと思っている。


 自宅の外ではパトカーのサイレンが鳴り響いていた。自分を警察に突き出すのかと恐怖におびえ、遥大を良子に預けて、やっと逃げられると感じた真紀は、急いで玄関の外に出た。これで願ったり叶ったりだと、パトカーが止まった瞬間に藁をもすがる思いで、乗り込んだ。


「警察の人、連れてってください! 早く、急いで。お願い。私を乗せて、逮捕してください。お願いします」


 むしろ、現実から逃げ出せると思った真紀は、後部座席に乗っていた甚録にしがみついた。ただ、パトロールをしていただけの停車だったはずだった。良子は、まだ通報していない。サイレンが鳴ったパトカーは駅前のコンビニで起きた強盗の方に向かっていた。勘違いだったのだ。


「あ、すいません。この辺のパトロールで要請があっただけで、別に逮捕するために来たわけじゃないですよ?」


「え……そ、そうなんですか」


 エプロンの裾がびしょ濡れの真紀の姿は、すっぴんのまま、髪もほだれていた。とても疲れているんだろうなと甚録は察する。


「真紀さん! 突然、そんなこと言われても、困るわよ!!」


 さっきと矛盾している良子だ。孫育てを絶対にしたくないという言わんばかりだ。


「お義母さん、さっきと言ってることが全然違いますよ。私は行きますよ。後は頼みますね」


「え……」


「お母さん!」


 良子は呆然とする。母はどこに行くんだと不安がる遥大。逃げ出したい一心の真紀。


「一体何があったか、詳しくお話聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」


「……何か匂うな」


 岳虎は、表情と行動が怪しいなと真紀と良子をじろじろと見る。甚録は、突然に悪いことしてるわけじゃないのに逮捕するって言う彼女の様子が変だなと首をかしげる。近づいてきた遥大の体をじっと見つめる。袖をまくると、赤く腫れあがっている。尋常なないくらいの肌異常。これは何かがおかしいと理解する。


「小茄子川くん。今すぐ、少年を病院へ連れて行きましょう」


「へ? これ、救急車じゃないぞ。いいのか?」


「……そんなこと言ってる場合じゃありません。お母さん、一緒にいいですね?」


「は、はい」


 言われるがままに行動する岳虎は、運転席に座り、シートベルトをしめた。自然の流れでなぜか良子もパトカーに乗り込む。指示されたわけじゃないが、何となく付き添わなければならないのではないかと思った。乗車人数は五人。セダンのパトカーは、ギリギリの人数だった。これでよかったのかと疑問符を浮かべるが、パッと切り替えて、どうにでもなれと思った甚録だった。カーオーディオからロック音楽が流れている。今の雰囲気に全然合わない。乗っている五人は、複雑な気持ちでそれぞれ窓の外を見ていた。車内はロック音楽だけ響いて、しばらく沈黙の状態が続いていく。交差点ではたくさん人々が行き交い、歩行者信号機の音が鳴り響いている。


「ちょっと、考えたんですけど、やっぱり、救急車と連携しましょうか。よくよく考えたら、二つの仕事を受け持っていますね。一度戻りましょう」


 甚録は、慌てて連れて行こうと考えてしまったが、警察の仕事は、けが人を連れていくことはしないことを思い出す。元々、地獄で閻魔様のお遣いをしていた司録。警察になって数週間。右も左も分からずにインテリぶってやっている。しかも、警察庁でバリバリこなす鴇 甚録として知れ渡っている。ここで、ヘマしたら怪しまれることを思い出す。


「ミス、したんすね」


 岳虎はボソッと呟く。助手席に手を置き、甚録を鬼のように睨む。ハンドルをまわして、交差点を転回した。


「ちょ、待ってくれ。小茄子川くん、ここは転回禁止の交差点だ。あちゃー……」


 左側の看板を見ると、しっかりと転回禁止のマークがあった。岳虎はそれどころじゃないと額に筋を作る。後部座席に座っていた遥大を真ん中にして、真紀と良子は何も言えずに静かに座る。あまりにも怖い顔の岳虎を見てしまったからだ。


「うっせー! 黙って乗ってろ!」


 イライラがとまらない。遥大の家に着くまでの車の中はずっと空気が重かった。正真の本音が出た瞬間だ。憑依されていた岳虎本人も呆れ顔で正真の様子を伺っている。もう、なんでこうなったかも気にもせず、乗っ取られても平気な顔でいた。


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