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地獄の案内人  作者: 餅月 響子


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第19話 哀しみを越えて響く叫び

 パトカーに乗り込む優弥の姿があった。


「お父さん!! どうして、どうしてあんなことしたんだよ! 僕は、学校なんてもう行く必要なかったんだよ。この学校に未練なんて少しもなくて、区外のフリースクールに通おうってお母さんと相談してたんだ。僕は一度もお父さんに助けてなんて頼んだ覚えは無かったんだよ。どうして、先生を刺しちゃったんだよぉおお。僕は、僕は、お父さんとキャッチボールができるだけでそれだけでよかったんだぁ。うわぁぁぁーーん」


 服までびしょ濡れになるくらい涙を流す涼聖の姿と話を聞いて、きちんと息子の話を聞いてやればいじめの加害者も加害者を守った先生のことを恨むことはなかったかもしれない。

 涼聖は、車から手錠をつけたまま出てきた父の優弥の足をしがみ続けた。刑務所に入ったらしばらく会えなくなるんだろうと想像する。父と過ごす時間が減ってしまうことに凄く悔しい思いにあふれていた。父の優弥も泣きながら、息子の涼聖の頭を撫でてなだめていた。親として、見本にならない姿を見せてしまったなと後悔する。


「そろそろ……」


 甚録は優弥の背中にそっと触れた。後部座席に座らせ、隣に甚録が座った。窓の向こうにはまだ泣き続ける涼聖の姿がある。走り去るパトカーを大通りの交差点で曲がるまでずっと追いかけていた。


「お父さぁーーーん」


 と大きな声が響いていた。泣き崩れて地面に伏す涼聖の姿が優弥の胸に深く深く刻まれていった。


 一方、その頃の閻魔大王の王座の間では


「誰が、施しなどするものか。罪人の差別はしない! そんな面倒なことするわけなかろう。よし、入った」


 人間界での話をしっかりと聞いていた地獄耳を持っている閻魔大王は、玉座の間でパターゴルフを楽しんでいた。もちろん、罪人たちは順番はまだかまだかと行列をなして閻魔大王の審判を待っていた。パターゴルフを目の前でしていることにみな、苛立ちを隠せずにいたが、閻魔大王にとってはそんなことはつゆ知らずであった。


「司命、もう一回球を戻してくれないか。早くしてくれ」


「……閻魔様、まだおやりになるのでしょうか? 罪人の皆様、待っておられますよ」


 司命は言われた通りに閻魔大王の足元にゴルフボールを移動させて言うが、これっぽっちも聞いてもいない。そのままパターを打っていた。


「んー、スイングがいまいちだなぁ。もっと腰を振った方がいいのかな。げっ、いたたたたた……」


 素振りを何度もすることによって、ぎっくり腰となってしまう閻魔大王がそこにはいた。担架を持った小鬼たちが玉座に近づいた。


「わしは、大丈夫だ! そんなものはいらないんだ! じいさん扱いするでない。まだまだ動けるわ! いたたたた……」


 無理して動こうしたが、腰の痛みは半端なかった。さすがの司命も額の筋が大きく出た。


「閻魔様! いい加減にしてはどうですかぁああああああああああああああ」


 耳元で叫ぶ司命。閻魔大王は鼓膜まで響き、ふらりと倒れた。その隙に小鬼たちが担架で運ぶ。


「エッホ、エッホ、閻魔様を運ばなきゃ。エッホ、エッホ」


 小鬼たちは伸びきった閻魔大王を担架で寝室まで運び、静かに寝かせた。なぜか閻魔大王の寝室には、小鬼がたくさんついたベッドメリーがくるくるとまわっていた。


「しばらく、横になって休んでてもらいましょう。今の閻魔様はあそこにいらしたところで何の役にも立ちませんからね」


 司命の言葉にグサッとささる閻魔大王は大量の涙を流し、そのまま眠りについた。しばらくここで安静することになるだろう。その間の閻魔大王を代わりは誰が担うのか論争が玉座の間で行われていた。


「おいおい。誰が、この行列裁いていくんだ?」


「俺には無理だ」


「僕にも無理だ」


「お前は?」


「無理無理無理」


 明らかにできるわけのない小鬼たちの小競り合い。そこへ大きなガベルを持って、司命がたたく。


「静粛に!!!」


 一瞬にして、ざわついていた玉座の間が静寂した。何も話さずに顔を見合わせる小鬼たち。まさかの司命が審判するのかと目を大きくさせていた。


「これより、閻魔様の代理で私が罪人の審判を仰せつかった。早速、審判を開始する」


「おーーーーー」


司命の言葉を聞いた小鬼たちは盛り上がりを見せていた。バベルを握った司命は閻魔大王より迅速な対応で罪人を次々と裁いていった。本物の閻魔大王よりも真面目にそして早い裁き方に小鬼たちは感動の目で司命を見る。だが、それさえも注意されてしまう。


「どこを見てるんだ。この者は阿鼻地獄に送り込め! 次だ次。早くしないと玉座の間が埋まってしまうぞ!」


「御意!!」


 小鬼は、慌てて敬礼をした。本当に司命は閻魔大王ではないのかと錯覚してしまうほどだった。


(本当に閻魔様のやり方ではいつまでも終わらない。なんであの方が裁くのか意味がわからないなぁ)


 額に汗を流しながら、次々と罪人を裁く司命。自分の仕事である巻物に書かれた罪状を読み上げる仕事はその辺にいた小鬼に任せていた。今は人間界で鴇 甚録という名前で行動してる司録の罪状を記録する仕事も一人の小鬼にやらせていた。誰かが担うことさえできれば、閻魔大王の代わりはできることがわかった。


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