表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の案内人  作者: 餅月 響子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/50

第15話 逃げられない罰

―――その頃の牧角 滉史は


「ふざけるんじゃねぇぞ。俺が地獄に行くだ? ありえねぇ。行くわけねぇよ。たかが、兎を殺しただけだ。そこらへんにいる兎のキーホールダーをつけた女子高生だって、電車の中で騒いで人様迷惑かけてるんだ。あんな奴ら生きてたって、人を傷つけるだけだ。いなくていいんだ。屎泥処しでいしょだとか、あんな汚いところ死んでも嫌に決まってるわ! ハハハ!」


 砂浜を駆け出して、木々が大茂っている丘へ走り逃げた。正義を貫き通しているようで、自分自身が悪になっている。ヒーローにでもなったつもりでいるようだ。

屎泥処は、等活地獄レベル2の世界。小動物を殺した罪で閻魔大王に送り込まれる。煮えたぎる糞尿の池の中に亡者はもがき苦しむことになる。体は小さい虫たちに食われてしまうという空間だ。暑くて悪臭に責められ、苦しむばかりだ。滉史の場合は、兎を殺しただけではなく、女子高生を殺した罪も処されるだろう。その地獄だけでは済まされない可能性が出てきた。正真が憑依した岳虎は、瞬間移動の力を使い、牧角 滉史の向かう先で立ちはばかった。


「くっ……なんで追いついてくるんだよ。俺は、お前らよりも足が早いはずなんだ」


「観念しろ。もう逃げ場はない。この先は海につながっているが、向こうには海上保安庁の船が来ている。お前の自由に行ける場所は無いんだ」


「ち、ちくしょーーーーー!」


 ナイフを持たない牧角 滉史は、体当たりで岳虎に立ち向かった。筋肉ムキムキの体に憑依してラッキーと感じた正真は、ひょいっと軽い力で滉史の腕を後ろにひねってうごけなくさせた。時間差で追いかけてきた甚録が手錠で後ろで滉史の手首を繋いだ。往生際が悪いやつだった。


「あれだけひどい地獄を見せても懲りないやつだな。もっと酷いのもあるんだぞ」


「……けっ」


 唾を吐き捨て、顔をうつ伏せにした。無言のまま動かなかった。


「んで? 兎の他に何を殺したって言ったかなぁ?」


 芋虫のようにぐねぐね動く滉史の横を岳虎はそっと耳元で聞いた。


「詳しくは署で聞きましょうか。ねぇ、小茄子川くん」


「それもそうだなぁ。こんな風が強いところで聞かなくてもいいなぁ」


甚録は、すぐに岳虎に船に乗せるよう誘導すると、悪態をつきながら、滉史は岳虎の後ろを着いて歩いた。冷静に話をすればいうことを聞くのかとほんの少し安堵する。


―――殺風景な4畳半の部屋に机とパイプ椅子、録音機器が置かれていた。ドアは、密室にせずに全開で個人情報に配慮して、パーティションが置かれていた。窓が一切なく、何となく、蒸し暑く感じる。部屋の中には捜査官の小茄子川 岳虎と鴇 甚録の二人が、牧角 滉史容疑者の取り調べを(おこな)っていた。


「さて、詳しく事情を伺いましょうか」


「……事情も何も見たまんまだよ。証拠は出てるんだろ?」


 腰に手錠をかけられたまま、右側視線をおとして、話し出す。もう、罪は認める意

思を示しているようだった。


「それはつまり、牧角さん。あなたがすべてやったと認めるんですね。孤島の兎大量殺害事件の犯人と……」


 岳虎がずずいと体を寄せて攻寄る。甚録は肩に手を置いてそれ以上は強くやるなと首を振って合図した。甚録は横から割って入り話し出す。


「心理学の行動で右下を見て話す行為は、悲しみや嫌悪感を表すそうですね。あなたは、捕まることが嫌だってことでしようかね。隠すおつもりはなさそうですけども……嘘をついているのですか?」


 もっともらしいことを甚録は聞くが、それに対して滉史は目を見開いて憤慨する。


「誰がむさ苦しいところに好んで行くんだよ! 仕方ねぇだろ。法律では動物殺害は罪を償うって決まってるんだから。嘘じゃねぇよ!」


 立ち上がって主張する。まぁまぁとなだめる岳虎。まるでお馬さんを落ち着かせる行為みたいだ。


「わかった。お前がやったということは信じるよ。まぁ、まぁ。悪いことしたやつはたいていは嘘つきだっていうだろ。泥棒は嘘つきだって言われてんだから」


 岳虎はじりじりと滉史の耳元に顔を近づけ、小声で話しかける。


「お前だろ? 女子高生の連続殺人事件の犯人は……ん? 違うのか」


「…………」


 何ともならない顔をしてパイプ椅子に座る滉史。黙秘権を貫き通すつもりのようだ。


「あーー、これはまた確信犯だ。兎殺しはフェイクにして本当の殺人事件隠すつもりだったじゃないのか。見えたぞ、俺は」


「な? そうなのか? 証拠つかんで言ってるのか。小茄子川くん。冤罪生む気ではないだろうな?」


甚録は、岳虎を疑った。咄嗟に思いついた戯言じゃないかと心中穏やかではない。滉史は、さっきとは違う表情を見せる。床の下の方に顔を向けて、前髪をおろす。穏やかな表情はどこへ行ったのか。悪魔のようなささやきを見せた。


「よーよー、お兄さん。いや、おじさん。よくもまぁ、そんな嘘っぱちを言えるねぇ。警察の職務を全うするのなら、嘘は良くないじゃないのかなぁ?」


 顔と手の動きが合っていない。明らかに本質をつかれた時の態度だ。岳虎の頬をこれでもかという勢いをつけて殴りつけた。


「公務執行妨害罪で現行犯逮捕!」


 また滉史の手首に甚録の手によって手錠をかけられた。取り調べどころではない。冷静な判断ができないということで留置場に送り込まれた。滉史の罪がどんどん重なっていく。留置所の中でぽつんと一人になった滉史は、自由が警察によって奪われた。孤独感にさいなまれる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ