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地獄の案内人  作者: 餅月 響子


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第14話 兎のキーホルダーと崩壊した心

誰もいない夜の公園で一人、殴られて放置された。うつ伏せになって、ぼんやりしていると、いじめてくる仲間の中にプロレスが好きな女子がいて、その()のバックにつけていた兎の可愛いキーホルダーが落ちていた。可愛いはずの兎はこの時ばかりは、悪魔の遣いに見えてしまう。キーホルダーのボールチェーンが外れている。擦り傷だらけの左手でぎゅっと握りしめて、バリンとプラスチックを割った。滉史の心で秘めていた思いがあふれ出る。やっちゃだめだという気持ちは誰の言葉か。己は自由に行動していいはずだと強気になる。


ホームセンターで選んだ鋭利な刃物。流行りのセラミック素材の包丁を選ぶ。切れにくいトマトもスパッと切れるらしい。これはトマト以外でも切れるだろうと、口角を上げる。


だだ広い畑からアスファルトの道に歩く野良猫を見つけた滉史は、試してみようと考える。もう、ここまで体や心を傷つけられたら、動物の一匹くらい平気だろうと常識から反する考えになる。人間様の方が偉いのだと優位に立ちたい。人間に取れないマウントを動物である猫に向けた。それが滉史の最初の動物殺生だった。これまで人間というロボットを演じてきた。どんなに立派に演じても批判され、注意され、まともじゃない、近寄るなと暴言を吐かれる。初めから底辺にいるのなら、もっと落ちぶれてやるというやけになっているのかもしれない。人間に手を下してないからまだマシでしょうと、十七歳の高校生男子の発想だ。


滉史の過去の記憶と想いを感じ取った正真と、憑依した岳虎が記憶の空間で浮かんでいた。正真は、多少自分の半生と似ている部分を発見して、頭痛がする。思い出したくない記憶。嫌な想いがフラッシュバックする。岳虎が正真の背中に触れるが、すぐにバシッと振り払われた。


「情けなんかはいらない!」


「…………」


呼吸を落ち着かせて、現代の人間界に戻ってきた。孤島の波打ち際で、仰向けになって倒れていた。海の水で下の服が濡れていた。力を使い切ってしまったのか、隣には憑依していたはずの小茄子川 岳虎がうつ伏せになって倒れている。顔は砂まみれで服は全部濡れてしまっていた。


「お疲れ様です。大丈夫でしょうか」


 野田 雅紀巡査部長が声をかけた。捜査に熱心である岳虎がびしょ濡れになっても調べる姿に感動する。


「あ、ああ。大丈夫だ」


 戻ってきたばかりの意識に頭がぼんやりする。どうしてここにいるのかは定かではないが、捜査に来ているのは確かだと辺りを見渡して理解した。横に倒れていたはずの地獄谷 正真は、身バレはしてはいけないと、慌てて、その場から逃げ出した。駆け出す正真を追いかける岳虎。憑依されていたことは記憶として残っていないが、記憶の空間で見せられた牧角 滉史の姿を見て、岳虎が巡査部長勤務の時に会っていた過去を思い出した。その記憶だけは鮮明に頭に残っていた。


「あいつ……なんで、走って逃げるんだ? 捜査をしていたやつじゃないのか」


「へ? どういうことですか。あいつとは? どの人のことでしょう」


野田 雅紀巡査部長に声をかけた岳虎は、動きがかたまった。指をさした方向には誰にもいなかった。人はいなかったが、たまたま流れ着いた蟹が鬼ごっこをするように海の方へ逃げていくだけだった。心とは裏腹に波の音が心地良く響いていた。


「あぶねぇ、あぶねぇ。俺があいつに憑依してるのがばれたら、大変なことにならないか? おいおい」


 指パッチンで孤島の公共のトイレに瞬間移動をした地獄谷 正真。隣には、壁に背中をつけ腕を組んで睨む鴇 甚録がいた。独り言を言ってたつもりだった。ビクッと正真の肩が跳ねた。しっかりと独り言を聞いていた鴇 甚録の姿があった。


「それで? これからどうするおつもりでしょうか」


 ふぅーとため息をつく甚録の姿を見て、正真の顔はひきつった。


「へ、へぇーへぇー。俺の力量不足ですよ。すいませんねぇ」


「謝ってる場合ではないですけどねぇ。あなたの作戦なんですから、任務は最後まで

遂行していただかないと、閻魔様はなんとおっしゃるか……」


 空を見上げて、目を細める。正真は冷や汗をかきながら走りだす。指をパッチンと鳴らして、空中に浮かんで霊体へ変化させた。少し遠くにいる岳虎の体へもう一度憑依した。念力を滉史の記憶を読む際に使いすぎた。脱出して、幾分回復したため、また戻ることにした。なおさら、睨む甚録の圧が怖かったのもある。滉史の過去の記憶を見ていた時に同時に滉史が行くであろう地獄の様子を見せた正真は、元の世界に戻った時に気づいていなかった。近くにいたはずの滉史が逃げ出していたことを。岳虎から憑依していた体が抜け出して、それどころじゃなかったのだ。


「野田巡査! あいつ、滉史はどこに行ったか知らないか」


「え、あー、滉史容疑者ですね。あれ、さっきまで手錠してパトカーに乗るようにっ

て言ってたんですけど、あ、その前に陸地まで移動しないといけないから船に乗せないといけないですよね。これはこれはうっかり。どこ行っちゃったんでしょう」


 野田 雅紀巡査部長はだいぶ抜けたところがあった。しっかりと捕まえていたはずの容疑者を逃がしてしまったようだ。


「……おいおいおい。それ、本気で言ってる? 船に乗れって言わなかったのか。また兎狙うんじゃないのか。でも、待てよ。凶器は回収してるしなぁ……周りは海だから海保に連絡しておこうか。野田、俺は島の中を探す。電話して協力を仰げ」


「え、何を? あー海上保安庁のことですか。仕事増えますねぇ」



 野田は、ポケットからスマホを取り出して、海上保安庁に容疑者が船で逃げ出してないかを協力要請した。岳虎は、甚録とともに逃げ出した滉史を探し回った。


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