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第1話 地獄の門をくぐる男

朱色の太い柱が数えきれないくらい建っている大きな赤い屋根の屋敷の中には、人間よりも数倍はあるだろうか体が大きく、太い黒眉で大きな黒い髭、長い笏を持った閻魔大王が浄波璃じょうはりの鏡で死者の生前犯した罪をじっと見つめ、内容確認していた。手元には死者の頭を左手でガシッとつかみ身動きできないようになっていた。右手には棍棒を持っている。


 「お前はだいぶ、ずるい生き方をしてきたようだなぁ。人間に勝てないからと、弱い者いじめをするために猫を殺し歩いただと? 弱い。弱すぎる! お前は、レベル1の等活地獄に行くがよい!」

 


 がりがりにやせ細った男性は、閻魔大王の振り回した棍棒で横腹を殴られた。小鬼たちが近づいて、男性の両脇を抱えて連れていく。正装に着替えた閻魔大王は、王座の間の大きく煌びやかな椅子にドカッと豪快に座った。頭に付けた礼冠が落ちそうになる。側近の司録しろくは、一仕事終えた閻魔大王に扇子で風を送りながら、死者の罪状を巻物に記していた。



「閻魔様、お疲れ様です。なかなか、お休みなく、お仕事なさっていますね。閻魔様のお身体が心配です。お休みになってはどうでしょうか」


 肘置き場に置いていたお茶をずずっと飲み干すと、じろりと司録≪しろく≫を睨みつけた。



「何を言うか。わしが休んだら、誰が審判を下すというのか。バカも休み休み言いなさい」



 息切れしながら、話す閻魔大王に横で次の死者の罪状を読み上げようとする司命しめいは口を開こうとすると、閻魔大王は彼の口をふさいだ。



「待て待て。今、呼吸を整えているだろう。見えないのか」


「あ、大変失礼いたしました」


 すると、赤く太い柱の向こうから、そっと覗く者の気配がした。


「何者だ?」


 敏感に反応した閻魔大王は、咄嗟に叫んだ。


「もう、お忘れですか。俺のことを……」


「なに?」


「そりゃぁ、もう。お叱りをことごとく受けた者ですよ。地獄修行を終えて来ました」


「なんだって?! お前は、八大地獄の究極の阿鼻地獄に送りこんだはずだぞ。ここに来るのは不可能だ。永遠に抜け出せない地獄のはずだ。衛兵! 今すぐ捕まえろ。逃げ出す前に。地獄谷 正真(じごくたに しょうま)を自由にさせるな!」



 閻魔大王は、慌てて小鬼衛兵たちを呼び寄せて地獄谷 正真を捕まえようとした。



「いやいやぁ、ここまで逃げてきたというのに、閻魔様、冷たいお方だ。薄情ですねぇ……。俺は、閻魔様の代わりをしようとここまで上がってきたんです。死ぬ気で、生きたいですから……こんな俺でも。さっき、聞きましたよ。俺、閻魔様のお力になりますよ。お任せください。面倒くさい罪人の死者を減らしてみせましょう」



 二匹の小鬼たちに両脇を抱えられた地獄谷 正真は、にやりと口角を上げて、何かを企んでいた。しばらく、休暇を取れていない閻魔大王にとって、願ったり叶ったりだ。



「……ほぅ。わしを助けると……見返りは何もないぞ? むしろ、戻ってきても同じ阿鼻地獄だ。それでもやるというのか?」



「ええ、いいですよ。俺は、生前、徳を積んだことはなかったですし、いい機会だ。閻魔様の徳を積ませていただきますよ。いい償いになるでしょう?」



「それもそうだなぁ。ただし、ただ単にこの裁きをやらせるのも責任重大だ。お前には、人間界での死者を減らすミッションを与える。それで、生前の罪を償えるとは思えない。それでも、罰は設ける。阿鼻地獄とはならないが、快楽を与えたわしの罰でもある。神様からお叱りを受けてしまうからな。ミッションを完了させても合格なわけじゃないからな。重々覚えておけ」


「……もちろんですよ。人間界に戻れるだけでも、ありがたき幸せです」


「……チッ。行け。今すぐ、行け。目障りだ」



 閻魔大王は、椅子の肘置きにカンカンと扇子をたたいて指示を出す。小鬼たちは不機嫌な顔をして面倒くさそうに、地獄谷 正真を人間界の扉に誘導した。


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