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王子は魔の森で救われた

(アレクシオside)


アレクシオ王子の眼の前には、毒を盛られ、今にも命の尽きようとしているミランダ王妃がベッドで横たわっていた。

王子はうつむきながら、力のない声でつぶやいた。


「聖女セレナの回復魔法をもってしても、母上を助けることができないのか」


王子の側に立つセレナが、下を向いて答えた。


「申し訳ございません。以前の私のように、聖なる力がもう少しあれば……」


「確かに、本来の君なら簡単に王妃を助けられたと思う。もともと君は瘴気を浄化する力を持った魔法使いなのだから」


そう言いながら、アレクシア王子はあの日のことを思い出していた。

それは、王子がまだ10歳の時の出来事だった。


好奇心旺盛で自分の能力を過信していた王子は、探検と称して魔の森に一人で入ってしまったことがある。

魔の森とは、その名の通り魔界とつながる恐ろしい森で、実際に多くの人がそこで命を落としている。


ほんの入口を覗くだけなら問題ありません。坊っちゃんの力なら簡単なことです。


まだ10歳だったアレクシオ王子は、宮廷の高官からそう告げられていた。

しかし、後に判明するのだが、その高官は国王の失脚を目論む他国の諜者だった。

王子は、そんな高官の言葉を鵜呑みにしてしまい、森へと向かったのだ。


もちろん王子は、ほんの少しの好奇心を満たせば、すぐに森から出てくる予定だった。

けれど、魔の森はそれほど甘くない場所だと、すぐにわかることとなる。


わずか数歩足を踏み入れたところで、王子は不思議な霧に包まれてしまう。

どの方向から進んできたのか全くわからなくなり、王子は森から抜けられなくなってしまったのだ。


(まずい! 一刻も早くここを抜け出さないと)


焦った王子は、森の出口を求めて走り回ったが、なぜか同じ景色が繰り返されるばかりで、一向に出口は見つからなかった。


そのうち足が急に重くなり、ついには動けなくなってしまった。

息が苦しく、体中がしびれてくる。

魔の森でこの症状……。

考えると、すぐに分かった。

自分が瘴気に侵されてしまったことを。


(僕はもう、ここで死ぬんだ)


絶望的な気持ちで座り込み、やがて苦しさのあまり座ることも困難になった。

もがきながら地面に横たわっていた時、思いもよらないことが起こった。

どこから来たのか、アレクシオ王子の目の前に一人の少女が現れたのだ。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


少女の問いかけに、アレクシオは返事をする力も残っていなかった。


「今、助けてあげる」


少女はそう言うと、両手を王子の胸へと当ててきた。


(この少女、もしかして治癒魔法を行おうとしているのだろうか。そんなことをしても、もう僕は助からないのに……)


そう思いながら死を覚悟していると、やがて少女の体が白く輝きだした。

体全体が優しい白色の光に包まれたのだ。


(なんだろう、この光は……。初めて見た……、こんなに心地よい光が世の中に存在しているなんて……)


しばらくの間、見たこともない光に癒されていると、少女は屈託のない笑顔でこう言った。


「もう大丈夫。さあ帰りましょう」


一体何が大丈夫なのか、すぐには理解できなかった。

だが、落ち着いて自分自身を観察してみると、劇的な変化が起きていることに気付いた。

呼吸することさえままならなかった体だったが、今は何不自由なく肺に空気が送り込まれている。

しびれて力が入らなかった全身は、力がみなぎり自由に動ける状態に戻っている。


体を侵していた瘴気が浄化されている証拠だった。


(この少女は何者なんだ?)


「さあ早く帰りましょ」


「帰ると言っても……、君は、どうやったら森を抜けられるのか、わかるのかい?」


「わからないわ」


少女はそう答えると楽しそうに笑った。


「でも大丈夫、セバスが案内してくれるから」


「セバス? 誰のこと?」


「この森にいる精霊の名前よ。ちなみに名前は私が付けたの。さあ行くよ」


そう言って歩き始めた少女のあとを、アレクシア王子はあわててついて行った。

少女は空中に顔を向け、誰かと話しながら、道をどんどんと進んで行く。

王子には見えなかったが、おそらく精霊と会話しながら歩いているのだろう。


15分ほど歩くと、周囲の霧が晴れていき、やがて木々の向こうから明るい光が差し込んできた。


森の出口に違いなかった。


「助かった!」


アレクシオ王子は思わずそう叫んだ。そして、森を抜けた瞬間に、安堵感から急に全身に力が入らなくなり、そのまま道端に座り込んでしまった。


「お兄ちゃんはここで休んでいて。誰か呼んでくる」


少女はそう言うと、倒れながら呼吸を整える王子を残し、走り去って行ったのだった。


しばらくすると倒れている王子のもとに村人たちが現れた。

村人は男の子の身につけている服から、彼が王家の者だと知ることになる。

村人が騒ぎ始め、そのうち男の子がアレクシオ王子だと判明すると、今度は村中が大混乱に陥ってしまった。

そんな中、王子は宮廷からの馬車に乗り、無事にエルフィンド城へと戻ることになったのである。


「大切なことを忘れていた」


城へと戻る道中、アレクシオ王子は唇をかみしめた。


というのも、王子は、あの少女の名前を聞いていなかったことに気付いたからだ。


 ※ ※ ※


それからというもの、アレクオ王子は命の恩人である少女をずっと探し続けた。

幼くして、瘴気を浄化してしまうほどの魔力の持ち主。

そんな突出した力を持つ魔法使いなら、嫌でも目立つ存在でいるはず。

探せばすぐに見つかると思ったのだが、なぜかそのような少女を発見することはできなかった。


見つからぬまま、あっという間に15年が経過した。

そして、ついにアレクシオ王子は、探し求めていた少女を発見することができたのだ。


王子の思った通り、彼女はこの国で一番の魔力を持った女性だった。


聖女セレナ……。


彼女と初めて会ったときの会話を思い出す。

聖なる力を発動した新しい聖女を祝うために、アレクシオ王子が大聖堂を訪れた時のことだった。


「聖女セレナ、君は瘴気を浄化することができますか?」


アレクシオ王子の問いに、セレナは即座に答えた。


「できると思います」


「できる……。実際に成功したことはあるのですか?」


「昔、魔の森で、瘴気に侵された男の子を助けたことがあります」


「えっ?」


アレクシオ王子が固まった。


「もしかして……、君だったのか……」


「どういうことでしょう?」


「魔の森で男の子を助けたというのは、いつの話ですか?」


「私が6歳の時ですから……、もう15年くらい前だと思います」


「……」


アレクシオ王子はあえてゆっくりと呼吸をして、気持ちが高ぶりすぎないように努めた。


「……ついに、見つけたよ」


そんな王子の様子を、首を傾げ不思議そうな顔で見ていた聖女セレナだったが、何かを思い出したのか、パッと目を見開きこう言った。


「まさか、あの時の男の子は……、アレクシオ王子だったのですか?」


「そうだ。あの時君に命を救ってもらったのは私だ」


セレナはしっかりと王子の顔を見つめ、こう言った。


「まあ、なんということでしょう! こうしてまたお会いできるなんて、何か運命のようなものを感じてしまいますわ!」


この日以来、アレクシア王子の頭の中には常にセレナの姿が浮かぶようになってしまった。

今まで探しに探していた命の恩人をやっと見つけることができたのだ。


そんなセレナを思う日々を過ごしているうちに、王子はいつしか彼女に対し、ある種の気持ちを抱くようになった。

セレナを他の男には取られたくない。そう思うようになっていったのだった。

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